2人が本棚に入れています
本棚に追加
『――それで、来週お花見に行かなくちゃいけないんだ』
『Yちゃんも大変だね…』
DMを送ると、ほどなくして、Sから返信があった。ベッドの上でスマホを握り、私はしんみりとしてしまった。
Sとは、とある作品投稿サイトで出会った。私は当時高校一年生、彼女は中学三年生だった。
私は小説とイラストの両方を投稿していたけど、彼女はもっぱらイラストを描いていた。初めの印象は、繊細な、それでいて芯のある絵を描く人。やりとりしてみると、お茶目でどこまでも素直な子だった。作品が好きで追いかけていたはずなのに、私はいつの間にか、彼女の人柄に惹かれていた。
『Sさんは、静けさの中に動きを感じるようなイラストを描くんですね』
あなたの絵が好きだと伝えたくて、語彙力が乏しいなりに、そんな感想を送ったことがあった。Sはこの言葉をすごく気に入ってくれたらしくて、ずっと覚えてくれていた。
SNSでも繫がって、私たちの仲はより深まっていった。リアルで会ったことはないけれど、よく通話もして、誰にも言えないような悩み事を打ち明けたりもした。実はおしゃべりは、楽しくて心温まることなのだと、私は彼女から教わったような気がした。
彼女は私のことを「親友」だと言ってくれたし、私も同じことを彼女に伝えた。家族以外でこんなに大切にしたいと思った人は、Sが人生で初めてだった。
彼女がいてくれたから、私はさみしいとは思わなかった。ただ一つ残念だったのは、彼女がSNSのアカウントを、ある日突然消してしまったことだ。
『Sちゃんのイラスト、前にも増して上手になったよね』
『ありがとう~! 今度余裕があるときにYちゃんの小説も読むね』
『うれしい! でも、Sちゃんに合わないお話もあるだろうから、無理しないでね』
『私、意外と雑食だから大丈夫だよ』
Sとネット上で再会したのは、今年の二月のことだった。四年ぶりに話す彼女は、絵柄が洗練されて「神絵師」と呼ばれていた以外は、以前とちっとも変らないように見えた。
『私、彼氏と喧嘩して現物とかデータとか関係なく絵を捨てまくっちゃうこと、よくあるんだよね』
けろっとした様子で、そう言っていたのを思い出す。
彼女はきっと、私と同じだ。
私は、自分の生き方を誇りに思ってる。
他人と打ち解けられなくても、皆と同じものを楽しめなくてもいい。私には好きなものや楽しいことがたくさんあるし、心を許せる親友がたった一人いれば、それで十分なんだ。
最初のコメントを投稿しよう!