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カードを読取機にかざして、退勤する。外に出たら、同じ部署のAさんとばったり出くわした。Aさんは私より幾らか年上だけど、中途採用で、私とほぼ同時に入社している。
「お疲れ様でした」
今日も早く帰って、九時台には寝なくちゃいけない。笑顔を繕って立ち去ろうとすると、呼び止められてしまった。
「Iさん、習字ならってたんですか?」
Iというのは、私の本名だ。
唐突な質問に困惑していると、Aさんが言った。
「文字、とてもお上手なので」
今日、Aさんに仕事の内容を書いたメモを渡した。それを見て言っているのだと思い当った。
「いえ、独学ですよ。そう言われると、照れちゃいますね」
字のことはいろいろと勉強していて、ちょっとだけ自信があった。目立たない特技だけど、こうして面と向かって褒められると、やっぱり嬉しい。
Aさんはびっくりした様子で、感心したように言った。
「独学で、あんなに上達できるんですね」
その日は、初めて会社の同僚と退社した。車内で他愛のない話をして、Aさんは私より手前の駅で降りていった。
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