したかったのは君とじゃない

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したかったのは君とじゃない

橘六花(たちばなりっか)の傍にいる為に俺はこいつと結婚した。 「恭平(きょうへい)、結婚指輪どれにする?」 「えっ……ああ」 俺と野村美奈子(のむらみなこ)は、来月の結婚式で交換する指輪を選んでいる。 「どこ見てるの?恭平」 「いや……。別に……。ってか、そっちの指輪はまだじゃないのか?」 俺が見ている先にいるのは、親友の楠木衛(くすのきまもる)と婚約者の橘六花だ。 「確かに、俺と六花は2ヶ月後だけど……。見るぐらいいいじゃん」 「何だ、それ。衛は、昔から変わってるよな」 「何だよ!それ」 「もう、恭平。ちゃんと見てよ」 「うん。わかってるって」 Wデートをしていたら、【結婚指輪】を選びに行きたいと言い出した美奈子のせいで……。 俺は、六花と衛のイチャイチャを見せつけられている。 「これ綺麗じゃない?どう?」 「本当だな。ゴールドとホワイトってバランスいいもんだな」 「まもちゃんは、好き?」 「好きだなーー。こういうデザイン」 鼻の下をデレデレと伸ばしながら笑う衛にイライラする。 「恭平は、どっちがいい?私は、こっちがいいかな?」 「俺は、美奈子が好きな方で構わないよ」 「恭平は、いっつもそればっかじゃない」 プクッと頬を膨らませて美奈子が怒るけど……。 何一つ可愛いと思えない。 それでも一緒にいるのは、あっちの相性が悪くなかったからだ。 それがなければ、とっくに別れてるし……。 結婚なんてしなかった。 それに結婚を決めた理由は、橘六花の親友だったからだ。 そうじゃなければ、結婚なんかしなかった。 「違う所も見てみたいかなーー」 「じゃあ、そうしようか」 俺達、四人は店を出る。 六花と衛は、俺達の前を腕を組んで歩いている。 「恭平……。今日、見つけられなくてもいい?」 「大丈夫だよ!まだ、時間あるから」 美奈子が腕を組んで俺を見つめてくるから、チラリと視線を交わしてにっこり笑っておいた。 正直、美奈子の機嫌をとるのはめんどくさいし大嫌いだ。 じゃあ、別れろって思われるかも知れないだろうけど……。 だけど俺は、美奈子と別れるつもりはない。 理由は、簡単。 俺は、二人が仲が悪くなるいつかを待っているんだ! 「あっ!恭平、ここだね」 「行こうか」 「うん」 指輪を楽しそうに見つめる美奈子を見ながら、俺は3年前の出来事を思い出していた。 「ってか、藤村パイセンは空しくないんですか?だって、藤村パイセンの好きな人と親友が結婚しちゃったんでしょ?」 衛と六花の交際を打ち明けられた俺は、誰にも相談出来ず。 中学の野球部の先輩だった、藤村勇斗(ふじむらはやと)を呼び出していた。 「まあ。8年も前の話だよ」 「どうやって乗り越えたんすか?俺は、まだまだ無理そうなんで」 落ち込んで泣きそうな俺の背中を藤村先輩は叩く。 「乗り越えてなんかいないよ」 「えっ?」 「俺と希実(のぞみ)は、不倫してる」 「は?」 ずっと誰にも言えなかったのだろう。 藤村先輩は、ビールを飲み干して言ったのだ。 「えっと、ちょっとどういう意味か?えっ?わからないんですが」 酒が入ってる俺は、困惑していた。 考えても、考えても……。 意味がわからなかった。 藤村先輩は、成瀬優子(なるせゆうこ)さんと結婚している。 「実は、恭平に言ってなかったんだけど。優子は、大学からの希実の友人なんだ。……ひいたよな」 その言葉に俺の頭の中に浮かんだのは、【使える】だった。 「恭平?」 「藤村パイセン。それってどうやって付き合ったんですか?」 「えっ……あっ、それは希実が子供が産まれてから(しょう)を受け入れられなくなったみたいで。それを翔に会った時によく聞いてて。たまたま、みんなで集まろうってなった時に希実に聞いたんだよ。それから、レスの相談とか受けるようになって気づいたらって……」 「へぇーー。いつか、待ってたらそんな風になれるんですか……」 「これは、俺達の場合で。恭平と六花ちゃんは、そうならないかも知れないぞ」 「いいんです、いいんです。いつか、そんな日が来るかも知れないって思えるだけで……未来が楽しみじゃないですか」 「恭平……」 俺は、藤村先輩が教えてくれた話に興味が湧いた。 そして、【今】じゃなくても【いつか】そうなれる未来を見つけたのだ。 「恭平……恭平ってば、聞いてる?」 「あっ、ごめん。どうした?」 美奈子の声に、驚いた顔を向ける。 「どうしたの?ぼんやりして」 「ごめん。付き合った時の事を思い出してた」 「なに、それぇーー」 俺は、大嘘つきだ。 だけど、不思議と嘘をついても罪悪感が湧かない。 多分それは、美奈子を愛してないから……。 「このデザインがシンプルで、恭平の好みかなって思うんだけど、どうかな?」 「悪くないな!あっ、でもこれもいいかな」 「そっちも迷ってたの。ねぇーー。六花はどんなのにするの?」 「えっ?私。シンプルなのがいいよね、まもちゃん」 「だなーー。シンプルが一番だよ」 衛と見つめ合って嬉しそうに笑ってる。 普通なら、嫉妬したりするんだろうけど……。 そんな気持ちが湧かないのは、藤村先輩のお陰だ。 あの日、相談してよかった。 「恭平、マジで言ってるのか?」 「そうなんすよ。たまたま、美奈子に告白されて」 藤村先輩と再び会ったのは、美奈子と交際して一週間後だった。 「でも、美奈子ちゃんって六花ちゃんの親友だよな?」 「そうですよ!小学校からずっと一緒にいる幼馴染みであり親友です」 「だからか……」 藤村先輩は、妙に納得した表情をする。 「なんすか?その顔」 「いや……。六花ちゃんの事、話してもバレないもんな!小学校からだとって思ってさ」 「かも知れないっすね」 「恭平……。めちゃくちゃ悪いやつだな」 「そうっすか?俺的にはハッピーエンドだと思ってますけど」 「いやいや、バットエンドだろ?で、美奈子ちゃんを好きなのか?」 藤村先輩は、笑いながら手を左右に振った後ですぐに真顔になった。 俺は、その言葉に首を左右に振って見せる。 「まさか!本気で言ってるのか?俺でも、優子の事はそれなりに好きだったぞ」 「そのまさかですよ」 「って事は、告白されて付き合ったのか?」 「いや違いますよ。俺から告白したんです」 藤村先輩は、俺の言葉に驚いてかなりひいていた。 当たり前だ! 好きでもない(ひと)に告白する人間など、初めて出会ったのだろう。 だけど、俺は六花の為なら何だって出来た。 「恭平……恭平……。また、聞いてなかったでしょ?」 「あっ、ごめん」 気を抜くとすぐに現実逃避したくなるぐらい美奈子は好きじゃない。 「六花にも聞いてたら、やっぱりダイヤモンドとかないシンプルなのがいいみたい。ほら、家事で引っ掛かるから」 「そうかもな!引っ掛かったら危ないからな」 小ぶりで低い鼻に細い切れ長の目。 清楚系が好きな男には受けそうな美奈子の見た目を俺は苦手だ。 それよりも、俺は六花の顔の方が好き。 大きな目に高い鼻に小さな唇。 話をするとクルクルと表情が変わり見ていて飽きない。 「じゃあやっぱりこういうのにしようかな?あっ!でも、もう一件みたい」 「えぇ!マジかよ。ごめんな、衛、六花」 「いいよ!俺は別に楽しいし。あっ、トイレ行ってくるわ」 「私も大丈夫だよ」 「私もトイレ行ってくるね。恭平」 「あっ、うん」 俺と六花は二人になった。 六花は、指輪を眺めている。 その横顔が、凄く綺麗だ。 「どんなのにしようと思ってる?」 「うーーん。シンプルがいいかな?でも、ホワイトゴールドとゴールドのコントラストも綺麗って思うの」 六花の笑った顔を見ると抱き締めたくなる。 もし、指輪を一緒に選ぶのが俺だったら? 六花と結婚するのが、俺だったら? 俺、藤村先輩みたいに待てるのかな……? 衛と結婚 「……するな……」 「えっ?」 「結構するなってこのコンビだと」 「うん。そうなんだよね!予算オーバーだよね」 衛と結婚するなって言いたかったけど、言えなくて……。 何とか誤魔化せてよかった。 「でも、恭平君が美奈子と結婚するとは思わなかった!」 「そう?」 「うん。二人は、まだ結婚とか考えてないと思ってたから」 「そんな事ないよ。やっぱり、子供とか欲しいって考えたら早い方がいいからさ」 美奈子との子供なんていらない。 だけど、子供ぐらい作らなきゃ不自然だよな。 藤村先輩も子供いるからな……。 「そうだよね……二人、遅いね」 「ああ、そうだな」 「あのね、恭平君」 「何?」 「まもちゃんから何か聞いてない?」 「何かって何?」 「聞いてなかったらいいのいいの。忘れて」 「いや、気になるし……」 「まもちゃん、他に好きな……」 六花がそこまで言った時だった衛と美奈子がトイレから戻ってきた。 「じゃあ、次の宝石店見てから晩御飯食べよう!今日は、私が奢るから」 「美奈子が奢ってくれんの?」 「長い時間、付き合ってくれたお礼。あっ、恭平にはないから」 「何でだよ!」 「ハハハ。やっぱり、二人は仲いいな」 「ほんとに……」 さっき六花が言いかけた言葉が気になる。 他に好きな……って事は、衛は誰か好きな奴がいるのか? 六花と結婚するのに……。 って、待てよ! 衛に他に好きな奴がいるなら、俺が美奈子と結婚する理由があるのか? 結婚しなくても六花を奪えるんじゃないのか? 「恭平……行こう」 「ああ」
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