したかったのは君とじゃない

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【衛視点】 「好きなの……付き合ってって言ったら困る?」 「いや……困らないよ」 困るって言えなかった。 言ってしまえば、六花と恭平が付き合ってしまうと思ったから……。 それだけは、どうしても嫌だった。 許せる自信がなかった。 「よ、よかった。断られたらどうしようって思ってたの」 「そんなに?」 「そんなにだよ」 目を伏せたり、可愛く見えるように頑張ってみせる姿に虫酸が走る。 俺は、別に六花と付き合いたかったわけじゃない。 俺は……。 「何件見るの?美奈子ちゃん」 「もう、これで最後にするからいいでしょ?まもるん」 「やめてよ。その呼び方」 「ハハハ。まもるんは、耐えられるの?私と恭平が結婚しても」 「別に……。恭平は美奈子ちゃんを好きじゃないから」 「わかってる、わかってる。私だって恭平を好きじゃないもん」 美奈子ちゃんは、笑いながらスマホを取り出している。 「まもるんは、告白しないの?好きだって言っちゃえばいいのに……」 「いつか弱っている時に告白させてもらうから」 俺が好きなのは、恭平だ。 その為の手段として六花が必要だっただけだ。 元々、男も女もいけるから……。 六花に触れる事などたいした事はない。 気づかれた所で、嘘をつけば済む。 嘘をつくのは、小さな頃から得意だ。 結婚なんて別にたいした事ない。 「まもちゃん、これどうかな?」 「いいんじゃないか。俺は、よくわからないから」 指輪も結婚式も新婚生活も興味ない。 ただ、恭平と六花がうまく行かなければいい。 恭平が六花を見ていればいい。 どんな形でも、俺は恭平の目に映っていたいだけだ。 「まもちゃんと結婚できるなんて夢みたい」 指輪を見つめながら六花は笑っている。 夢か……。 夢みたいなもんだよな。 俺は、一生六花を愛する事はない。 「まもちゃん、指輪はまだ決めなくていいよね」 「俺は、まだいいよ。六花もゆっくり決めたいだろ?」 「うん。ゆっくり決めたい」 「じゃあ、それでいい」 わざとらしく頭をポンポンと叩く。 そしたら、恭平がこっちを見てくれる。 それだけでいい。 それだけで幸せ。 六花と結婚するのは、恭平と離れなくてすむ為だから……。 だから、多分。 俺は、最低だ。 神様が何らかの罰を下すかも知れない。 それでもいい。 恭平の瞳に映れるなら……。 「まもちゃん、やめてよ!恥ずかしい」 「何で?可愛いんだからいいじゃん」 一つだけ教えてあげる。 人間は、興味がない人には平気でこんな事出来るんだ。 確かに、そうじゃない人もいる。 だけど、俺は六花に興味がないから恥ずかしさもない。 ごめんね、六花。 俺は、一生君の好意を利用する。 【美奈子視点】 どっちが告白したんだったかな? 恭平と私。 別に、そんなのどうでもよかった。 だって、恭平といるとまもるんが私を見てくれるんだから……。 「恭平が好きじゃないの。私は、六花が好きなの」 確かに、六花は好き。 でも、別に恋のそれではない。 いつだったかな? まもるんに近づきたくて、嘘を言った。 もし、まもるんが恭平を好きじゃなかったら……。 これは、無駄な告白。 「そんな気がしてた。俺も恭平が好きだからわかるよ。恋のそれだから……」 やっぱり、好きな人の好きな人はわかる。 まもるんの告白に安堵した。 よかったって思った。 これで、私はまもるんの傍にいても怪しまれないって……。 まもちゃん、まもちゃんって六花が言うのがムカついた。 だから、何度目だったかな? 二人で会った時に、まもるんって呼んだ。 「まもるんって何かダサくない?」 「大丈夫、ダサくないよ」 「美奈子ちゃんって面白いね」 「そう?」 「一緒にいると気を遣わなくていい。同性が好きってバレたら引かれるから、今まで誰にも打ち明けられなかったけど。同じ悩みを持ってるから楽になれる」 「それならよかった」 二人で会う時、まもるんが見てるのは私。 Wデートをわざとしたいっておねだりするのも、まもるんが恭平を見るから。 今日だって、指輪を見に来たのもわざと……。 少しでも、まもるんと居る時間を増やしたかっただけ。 六花より、私を見つめる回数を増やして欲しいだけ。 「美奈子、結局指輪決めらんなかったな」 「うん。せっかく二件いったのに」 可愛いい顔をしたり、膨れっ面をしたり、何だって恭平には出来る。 だって、好きじゃないから……。 体の相性がいいかどうかはわからない。 だけど、そこを努力したのは恭平を離さない為だった。 結婚を決めてもらわなきゃ、まもるんと二人で会う口実がなくなる。 「あーー、腹減った。晩御飯、そっちはどうする?」 「まもちゃんは、どうする?」 「うーーん。外食ばっかりはしんどいから家で食いたいかな」 「衛が飯作るの?」 「今日は、俺の担当だからね」 「食いたいなーー。衛の飯」 「別にいいよ!引っ越し前で片付いてないけど来る?六花は、大丈夫?」 「うん、大丈夫」 「美奈子は?」 「大丈夫だよ」 「じゃあ、決まりだな」 こうやって、勝手に恭平はまもるんと約束してくれるから好き。 そこだけが、唯一好きな所。 悪いけど、私は恭平と別れるつもりはない。 だって、別れたらまもるんと会えなくなる。 会う理由がなくなる。 こうやって、視界に入れてくれなくなる。 「明日、また指輪見に行く?休みだから」 「うん。そうだね。恭平は、どんなのがよかった?」 「ネットとかも見てみようか」 私と恭平が並んでいるのをまもるんが見てる。 それだけでいい。 それだけで幸せ。 【六花視点】 最近、怪しいと思ってる。 まもちゃんが好きなのは、美奈子なんじゃないかって……。 でも、恭平君が美奈子との結婚を決めてくれて安心した。 まもちゃんを美奈子に取られたいですむから……。 まもちゃんだけは、絶対に渡したくない。 だから、結婚したかった。 結婚したら、そう簡単には別れられない。 「赤ワインって、まだ残ってた?」 「うん。新しいのあったよ」 まもちゃんは、私と手を繋いでるのにチラチラと美奈子を見てる。 まもちゃんが美奈子を好きなのわかってる。 だけど、渡さないから……。 「何作ろうかな?パスタでいい?」 「うん」 「六花は、クリームパスタがいい?」 「まもちゃんが作るのだったら何でもいいよ。美味しいから」 「そう?」 私とまもちゃんの思い出に美奈子が入ってきて欲しくない。 だから、まもちゃんが私を手放したくなくなるように頑張るの……。 さっき、恭平君にまもちゃんが美奈子を好きだって言いそうになった。 直接、まもちゃんに言われたわけじゃないのに……。 だけど、二人でトイレ何かに行くから……。 もう、そんな関係になったのかと思った。 「どうした?六花」 「ううん。まもちゃん、好きだよ」 「何だよ、急に……。俺も好きだよ」 二人で居る時は、ちゃんとまもちゃんは私を見てくれてる。 美奈子がいなかったら、ちゃんと私を見てるから……。 私の方がまもちゃんに愛されてる。 美奈子より私の方が愛されてる。 「まもちゃん……ずっと一緒にいようね」 「どうした?改まって」 「わかんないけど、言いたくなったの……」 「そっか。うん、一緒にいよう」 まもちゃんがニコニコと笑ってくれる。 大好き。 大好き。 愛してる。 家に帰宅して、まもちゃんとキッチンに一緒に立つ。 「適当にソファーでくつろいでて」 「おう!ありがとう」 「何か手伝う?」 「大丈夫だよ!美奈子は、お客さんなんだから」 「それもそうだね」 美奈子にこの場所を取られたくない。 「まもちゃん、お湯沸かす?」 「うん、お願い」 大きな鍋をとって、お湯を沸かす。 まもちゃんの隣にずっといるのは、私。 美奈子じゃない。 だから、まもちゃん。 私と離婚しないで。 「まもちゃん……嫌いにならないで」 「どうした?酔ってる?」 「まだ、お酒なんか飲んでない」 「そうだよな」 まもちゃんは、手際よく玉ねぎを切ってる。 玉ねぎの匂いがツンとして、涙が流れてきた。 「大丈夫、嫌いにならないし。別れないから」 「本当に?そんな約束出来る?」 「出来るよ!だって、俺には六花が必要だから……。六花とずっと一緒にいたいから」 まもちゃんの言葉に安心する。 大丈夫。 美奈子に、まもちゃんを取られない。 こうやって、Wデートしてたら二人で会う事もないんだから……。 大丈夫。 【恭平視点】 店を出て歩きながら考えていた。 もう少し、六花といたいって……。だから、晩御飯に誘った。 誘ったのは、六花をもっと見ていたかったから……。 衛から奪えるかと思ったが、ここに来るまでの二人を見ていたら無理なのがわかった。 「何か飲み物もらう?」 「別にいいよ。待っとこう」 「そうだね。あっ、恭平」 「何?」 「ずっと一緒に居てくれる?」 「当たり前だろ。美奈子がいなかったら、俺困るし」 「困るって何?」 「辛すぎて困るって事だよ」 愛してないだけで、こんなにもスラスラと気持ちを口に出せる。 時々、自分が怖くなる。 好きな人には、好きってさえも言えないのに……。 美奈子には、何でも言える。 でも、こうやってちゃんと口に出しとかなきゃ、美奈子が俺と別れるなんて言い出したら本当に困る。 俺の計画では、子供が産まれた後に六花と不倫する予定だ。 美奈子がいなくなったら、それは成立しない。 「お待たせ」 「ありがとう」 美奈子と結婚したかったわけじゃない。 だけど、他の人と一緒になったらこうやってWデートなんか出来ない。 だから、俺は美奈子の愛を利用してこうやって一緒にいるだけだ。 ・ ・ ・ ・ 【したかったのは、美奈子とじゃない】 【したかったのは、恭平とじゃない】 【したかったのは、六花とじゃない】 【絶対にまもちゃんを美奈子には渡さない】 ・ ・ ・ ・ ・ 俺達、四人は今日も明日も明後日も続けていく。 それぞれに秘めた想いを隠しながら……。 「お待たせ、パスタ出来たよ!六花、グラス持ってきて」 「取り皿とグラス持ってきた」 「じゃあ、ワイン取ってくる」 「私、サラダ作ってくる」 「うまそう」 「うわーー、すごい。お皿にいれるね」 互いに思う本心なんかどうでもいい。 必要なのは、この時間。 この時間さえあれば何もいらない。
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