1214人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
中学の同窓会のお知らせが来たのは、25歳になったばかりの冬だった。
これまでにも定期的に来ていたお知らせだけど、今まで1度たりとも参加しようと思ったことはなかった。だから、今回もすぐに欠席と返信するつもりだった。
「ん? ……そっか、先生もう定年なんだ」
橋本先生の定年退職のお祝いも兼ねて――その一文に目が留まった。
中学3年の時のクラス担任で、部活でも3年間お世話になった橋本先生。先生の定年退職のお祝いも兼ねているとなると、話が少し違ってくる。
「どうしようかな……先生には会いたいかも」
会いたい同級生なんて1人もいないし、誰ひとり連絡先すら知らない。
元々積極的に話しかけるタイプでも無かったし、中学時代は特に友達がいなかった。だから、高校の同窓会と違って、中学の同窓会には今まで1度も参加したことがない。
そしてなにより……私には、会いたくない人がいた。
「酒井君も来るのかな……」
なるべく思い出さないようにしていた彼の顔が不意に浮かんできて、心の奥底に沈めた苦い思い出まで浮かび上がってくる。
――中学3年の頃、一部の間で流行っていた遊びがあった。ゲームに負けたら好きでもない相手に告白させるという、罰ゲームという名の最低最悪な遊び。その告白を真に受けてしまえば、あっという間に彼らに笑い者にされる。本当の意味で罰ゲームなのは巻き込まれた側で、あんなのいじめ以外の何物でもなかった。
そういう遊びをしていたのは学年の中でも目立っていた人達で、告白相手に選ばれるのは、基本的に静かで目立たない地味な子達だった。
今でもそうだけど、私は完全に後者の人間だったから、ある時見事にその餌食になった。
そういう遊びが流行っているという噂は広がっていたから、警戒心が強くて真に受けることはなかったけど……相手が、予想外だった。
まさか彼が、酒井君がそんな事をするなんて、凄くショックだった。
その遊びをしているグループと仲が良さそうでも無かったし、基本的に無口で、部活も勉強も真面目にやってて、愛想は悪いけど私みたいな地味な子にも優しくて……私の、初恋の人だった。
「……万が一来てたとしても、私の事なんて覚えてないよね」
あの日以来まともに話もしなかったし、高校も別々で大学からは地元を離れたから、中学の卒業以来1度も会っていない。だからきっと、私の事なんて忘れてるはず。こういうのは、やった側は案外あっさり忘れるものだから。
そう考えたら、自分ばかり気にしているのも馬鹿馬鹿しいような気がしてくる。
「やっぱり先生に会いたいし、今回は参加しよう」
思い切って出席に丸を付けると、翌朝の出勤時にポストに投函出来るように通勤バッグの中に入れる。
「もう丸つけちゃったし……後戻りは、出来ない」
まだ全然先の話なのに、同窓会に参加することを考えると緊張で体が強張ってくる。
やっぱり丸つけ直そうかな……
何度も決心が揺らいだけど、先生に会う為だからと、出席のまま予定通り翌朝ポストに投函し、卒業以来初めて中学の同窓会に参加することになった。
最初のコメントを投稿しよう!