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「えっと……ごめん。もう1回言ってもらってもいい?」
「俺とデートして」
聞き間違いじゃなかった……
「デートって……何で?」
「もしかして、彼氏とかいる?」
「それは、いないけど……」
「良かった……俺も彼女とかいないし、何も問題ないな」
酒井君、彼女いないんだ……
って、そういうことじゃなくて。
「いや、あの……何でお願い事がデートなの?」
「何でって、したいからだけど」
「したいからって……」
「広山は、俺とデートするの嫌?」
「嫌とかじゃないけど……何で私とデートしたいのか分からないというか……だって、10年も会ってなかったんだよ? しかも、あれからほとんど会話らしい会話だってなかったのに」
「――俺は、忘れたことなかったよ」
「え?」
「お前を忘れたことなんて一度もなかったし、卒業してからもずっと会いたいと思ってた」
「何で……?」
「言っただろ? ゲームのこと後から知ったって。ちゃんと話し合って、それから……やり直したかった」
やり直すって、一体何を……まさか告白……?
そんなわけないか。だって、あれからもう10年だもん。酒井君の気持ちだって、もうとっくに変わってるはず……だよね?
「本当はあの時、すぐに話をしたかったんだ。でも、お前は俺のこと避けるし、なんとか話をしようと通学路で待ち伏せしたこともあったけど……お前の幼馴染に見つかって『受験前で大事な時期だから美月を動揺させるようなことするな』って言われてさ」
「幼馴染……? それってもしかして、聡太君のこと?」
「そう。あいつ隣のクラスだったし、お前と話してるのあんまり見かけたことなかったけど、仲良かったんだな」
「家が近所で同い年だから、小さい頃から一緒に遊ぶことも多かったし、それなりに仲は良かったと思うけど……」
だけど、聡太君が酒井君にそんなこと言ったなんて全然知らなかった。聡太君からもそんな話聞かされなかったし。
「……俺に告白されたこと、あいつに話してるぐらいだもんな」
「ううん。そのことは聡太君にも誰にも話したことないはずなんだけど……」
何で私が酒井君と話をすると動揺するって聡太君知ってたんだろう?普通は同級生と話すのに動揺するなんて思わないよね。
「ふーん……じゃあ、幼馴染だから分かる何かがあったってことかな。それはそれで、なんか見えない部分で繋がってるみたいで……妬ける」
「妬けるって……」
そんな言い方されたら勘違いしそうになる。ただでさえ動揺しっぱなしなのに、気持ちが全然落ち着かない。
「で……デートって言っても私、住んでるの東京なんだけど……」
「俺も東京だぞ?」
「え?」
「新幹線乗る前に、ホームで会ったの忘れた?」
「あっ……」
そうだった。あの時は酒井君だとは思わなかったけど、同じ新幹線に乗ってたんだった。
「そういえば、あの時私だって気付いてたの?」
「いや、まったく。あの時はただ、似てるなと思って見てただけ。さっき同窓会で見かけてやっとお前だって確信したんだ。面影はあるけど、想像以上に綺麗になっててびっくりした」
はにかみながら綺麗になったと言われて、ちょっと照れくさいような、胸の奥がむずむずしてくる。
酒井君もかっこよくなったと思う。あの頃だってかっこよかったし、サッカー部で活躍してたから密かにモテてはいたけど、無愛想なせいで近寄りがたい雰囲気だったから、女子と話してるところはあんまり見かけたことなかった。
今は大人になったからか、雰囲気もだいぶ柔らかくなってるし、昔に比べてよく喋るような気がする。
今は彼女いないみたいだけど、きっとモテるんだろうな……
「というわけだからさ、時間合わせてデートしよう」
「……分かった。酒井君のお願いがそれでいいのなら」
「よしっ。じゃあ、まずは連絡先の交換からだな」
お互いスマホを出して連絡先を交換しながら、流れでどの辺に住んでるかの話をしたら、まさかの一駅しか離れていない近所で驚いてしまった。
「もしかしたら、どこかですれ違ってたかもな」
「そうだね」
さっきまでの私なら、もし酒井君だと気付いたらその瞬間に逃げ出していただろうけど。
明日からの私は、酒井君だと気付いたらどうするんだろう……
「もし俺を見かけたら声かけろよ?」
「え?」
「俺も見かけたらすぐ声かけるし」
「……うん。分かった」
「じゃあ、日程は後で合わせるとして……行きたい所とかどっかあるか? 俺は――」
まさか、同窓会に出席してこんな展開になるなんて思ってもみなかった。
同窓会に来る前は足に錘が付いてるのかと思うぐらい重かったのに、帰り道の足取りは凄く軽くなっていて、単純な自分に苦笑するしかなかった。
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