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2.お詫びとデートと2人の関係
あれから何度か酒井君とやり取りをして、週末に決まったお詫びデートの日。
今日がいよいよ、その当日。
……なんだけど、男の人とお付き合いどころかデートすらしたことがないから、昨日から緊張してあんまり眠れなかったし、まだ着ていく服すら決まっていない。
「どうしよう……いかにもデートみたいな服で行くのもちょっと違うよね」
デートとは言っても、私達は別に恋人ってわけでもないし。うーん……友達と遊びに行く感じでいいのかな。
「――あ。このスカート、今度遊ぶ時に着ようと思って買ったやつだ。これならいいかも!」
これにニットかシャツか……うーん。
姿見の前で色々合わせて悩みに悩み、やっと決まった今日の服。世の中の女の子は皆デートの前にこんなに悩むものなんだろうか……
自分が今までどれだけ男性と疎遠だったのかを思い知った気がして、今日のデートが少し不安になってくる。一日中酒井君と2人きりなんて、中学生の時ですらなかったし、本当に大丈夫かな……とはいえ、今更逃げ出すことも出来ないんだけど。
お詫びだから、あんまりデートっていう言葉を意識しない方がいいかもしれないなあ……と思いながら、ふと時計を見ると、もう出発まで1時間を切っていた。
「え! もうこんな時間!?」
服が決まってホッとしている場合じゃない。
早めに起きたからまだ余裕があったはずなのに、いつの間にか進んでいる時計の針に驚いて、慌ててキッチンへ向かう。
「お腹空いてるし、少しは食べておかないと」
酒井君にお腹が鳴る音を聞かれるのは流石に恥ずかしすぎる。
買い置きしていた食パンにチーズを乗せてトースターで焼きながら、紅茶の準備を始める。今日はアールグレイにしよう。
私の周りには朝は珈琲っていう人が多いし、実家の両親も珈琲派だったけど、私は毎朝紅茶を飲むのが日課。というか、珈琲は来客用でしか置いていない。
「いい匂い」
珈琲の香りも好きではあるけど、私はやっぱり紅茶の方が好きだな。
紅茶の香りに癒されていると、丁度淹れ終わったタイミングでパンも焼き上がり、急いでテーブルに持っていく。今日はのんびり食べている暇はないから、急ぎ目で食べないと。
食事の後、歯磨きして着替えてメイクして、髪も少しセットして……平日に目覚ましを無視してしまった時並にバタバタと準備をしたおかげか、終わって時計を見てみると出発時間の数分前だった。
「良かった。何とかなった……」
バッグを持って、最後にもう一度鏡で全身を眺めてみる。
うん。変な所はなさそうだし、いつもの感じ。デートだからって変に意識してる感じもない……かな、多分。よし、これで行こう。
時間になって家を出たはいいものの、待ち合わせの駅に向かいながら段々心配になってくる。
そういえば、どういうのがデートを意識してるって思われるのかそもそも知らないかも。……え、本当に大丈夫かな。
果たして今の私の姿は、酒井君にどう思われるんだろう。デートだから気合いが入ってるとか思われないといいんだけど……
だってこれは、10年間彼を誤解して遠ざけて酷いことをしたお詫び。私が気合い入れるのは絶対おかしい。
「――良かった。酒井君まだ来てないみたい」
誠意を見せるのに、相手を待たせるわけにはいかない。
ホッとしたのも束の間、すぐに酒井君の姿が道の向こうに見えた。本当にギリギリだったみたいだ。
「悪い、待たせたか? 早めに出たはずなんだけど」
私と目が合った瞬間、酒井君は走り寄ってきて申し訳なさそうな顔をした。
本当に早めに出たんだろうな。だって時計の針は、待ち合わせの10分前を指しているから。
「全然待ってないよ。私も今着いたところだから」
「それなら良いんだけど。……今度からはもう少し早く出るか。待たせないようにしないと変な奴に声かけられそうだし……」
「……? 今何か言った?」
酒井君が何か言っているのは分かったけど、余りにも小声でボソボソと言うものだから、周りに人が多いのもあって全然何を言ってるのか分からない。
「何でもないよ。こっちの話。それより、その服いいな。広山に似合ってるし、俺そういうの好き」
「そう、かな? ありがとう」
好き、という言葉に一瞬ドキッとしてしまったけど、服のことだから!とすぐに思い直す。
それに、デートを意識してると思われた感じもなさそうだし良かった。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうだね」
促されて駅の中に入ると、休日特有の人の多さでざわざわしている。今は丁度お花見シーズンだから、更に人が多い気もする。
人が多いせいか、横にピッタリと並び立つ酒井君の距離感に内心緊張しながら、たわいもない話をしながら駅のホームで電車を待つことにした。
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