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「電車混んでるな。休日でもこんなに混むもんなのか?」
「うーん……今日はいつも以上に混んでるかもしれないね」
平日の満員電車に比べたらまだ余裕はあるけど、それでも隣に立っている人との隙間はあまり無い程度には混んでいる。
「俺あんまり休日に電車に乗らないから初めて知ったかも。広山は慣れてそうだな」
「慣れてるってほどじゃないけど、たまに友達と出かけたりするから」
「ふーん……その友達って女だけ?」
「そうだけど……?」
「ならまあ……うん」
「?」
酒井君が納得したように頷いているのを不思議に思っていると、次の停車駅に停まるのに電車が減速していくのを感じる。でも、停車すると分かっていたはずなのに、油断していたのか電車が止まった時の揺れで踏ん張れず、体が大きく横に動いた。そのせいで隣にいる酒井君に体重を預ける形になってしまって、「ごめん」と慌てて体を起こそうとすると、伸びてきた腕に体を支えられる。
「大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫。本当にごめんね。ありがとう」
「こっち側に立っといて正解だったな」
「え? どうして?」
「どうしてって……反対側にいたらお前が他の男に体をくっつけることになったかもしれないわけで……支えるなら俺がいいだろ」
知らない人に迷惑をかけるよりは、酒井君の方がまだいいのかな?いや、良くはないんだけど。知り合いの方が少しは気持ちが楽な気はする……かも。
「だから、ほら。もっとこっち」
「わわっ……」
支えられていた腰をグッと引き寄せられて、少しはあったはずの隙間がゼロになる。代わりに、隣に立っている男性との隙間が大きくなった。
腕が触れている部分……酒井君にくっついている体の右側全部が熱をもったように熱くて、全身がバクバクと脈を打っているみたいに感じる。
男の人にこんなにくっついたことないよ……心臓の音伝わってないかな?
「次、降りる駅だな」
「え? あ……そ、そうだね」
そっか。次が降りる駅なんだ。
この状況で次の駅とか気にしていられなかったけど、それなら出来るだけ早く着いてほしい。じゃないと、心臓が壊れそう……!
「もう少し……」
「え?」
「いや……もう少しだから、頑張れ」
「う、うん……」
多分酒井君の言う頑張れは、もう少しでこの混んだ電車から解放されるからってことなんだと思うけど……今の私は電車から解放されることよりも、酒井君の腕から解放されたい気持ちの方が強かった。
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