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「コート、ありがとうございます」
「風邪引かないで過ごしてね」
「はい」
おばあさんが杖を持つと、どこからかやって来た茶トラの猫が頭を杖にこすりつけた。
「あら、生きてたのね、サクラ。この子よ、あの人の恋猫は」
おばあさんは心底ほっとした様に猫を撫でた。
「この猫、サクラって名前なんですか」
「さあ、何となく。先日、あの人の家から真新しい首輪が見つかったの。そこに、桜の刺繍が入っていたから、そうかなって。どう?」
サクラがニャーンと鳴いた。
「当たってるのかも。ねえ、サクラ、あなたの首輪、私が預かってるの。一緒に行く?」
サクラがじっとおばあさんを見つめたあと、ズボンの裾に尻尾を絡めた。どうやら、同意を得られたらしい。
「じゃあ、行きましょうか。本当にありがとう。きっと、またどこかで」
「はい、また」
おばあさんとサクラはゆっくりと土手の階段を登って行った。不思議とこうなる事が決まっていたみたいだ。
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