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「あっ」
もしかして、男性はサクラを任せられるのは、彼女だと最初から決めていたのかもしれない。
「だとしても、言葉が足りないよ」
ふと思いついて、雨宿の写真を撮り、わざと何も書かずに夫に送る。どんな反応をするのか楽しみだ。
「さてと、たこ焼きでも買って帰ろうかな」
なんだかんだで、ソースの香ばしさには弱い。重い腰を上げ、桜の木に一礼する。何となく、そうしなければいけない気がした。
「あ、返事がいつになくはやい」
夫から、今日はケーキを買うから早めに帰ると妙に気遣いを感じる文面だ。たまには無言も良いかもしれない。
お腹の子がさっきまでは静かだったのに、目が覚めたのかぽこぽこと膀胱のあたりを蹴ったり、胃のあたりに頭突きをかましてくる。
「もう、痛いってば」
逆子でこのままだと、帝王切開になるらしい。初めての出産の上に、手術だなんて不安しかないのに、夫は手術の予定日が決まっているなら休みが取りやすくて助かると言った。何という言い方をするのだと言い返せなかった朝のモヤモヤは消えてない。たぶん、一生覚えている。喧嘩の火種はいつだって、記憶から取り出せてしまう。そんな私を叱っているみたいに、またお腹の子が手足をばたつかせた。
「痛いって、大丈夫。良いところだって知ってるんだから」
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