雨宿り

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「ーーアマヤドリ、と」  名の由来を検索してみると、大輪の白い花が葉影に垂れて咲く様子から「雨宿」と呼ぶらしい。長い花柄(かへい)から垂れ下がる様にして咲く花弁は傘に見えなくもない。  ゴツゴツと張り巡らせた根に気をつけながら桜の下のベンチへ腰掛けると、甘く柔らかな花の香りがした。 「気持ちいい」  ぼんやりと花を見上げていると、ぽつりと唇に水滴が落ちて来た。甘露ーーそれは、まるで天から与えられる不死の妙薬の様だった。 「おくつろぎのところ、ごめんなさい。となりに座っても良いかしら」   杖をついたおばあさんが、脱いだコートをわきに抱えて立っていた。 「もちろん、どうぞ」  手でさっとベンチに落ちた花びらを落とすと、おばあさんはありがとうと言って微笑んだ。 「こんなに綺麗だったのね」  おばあさんは大事そうに杖をベンチに立てかけ、切なげにぽつりとこぼした。
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