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休日の午前中、缶ビールを片手に、近くの河川敷を歩く。
土手にずらっと植えられた桜は、満開らしい。
「いい天気でよかった、空気ちょっとひんやりしてて気持ちいいー。」
一緒に花見をしながら散歩しようと誘ってきた彼女が、隣で伸びをしながら言った。
「んー、今年も壮観!桜の木って、ずらっと並んでるの、すごくいいよね…。
花もかわいくて好きー。」
垂れ下がった桜の枝に、ひらひらと近づきながら、彼女は平凡な感想を口にしている。
彼女の言葉は、いつも平凡だ。
「見て見て、あれ。」
再び隣を歩き始めた彼女が、ひそひそ声で言う。
「あの人たちが散歩してるの、古いアニメ映画に出てた犬だよ…!」
まだ少し遠目だが、真っ白な毛に黒の斑点のある、あまり見ないタイプの犬を、西洋人風の年老いた男女が連れている。
「ご夫婦かな…あそこだけ外国の桜並木みたいで、すてきね。」
平凡な彼女の、平凡な感想。
「わたしたちも、あんなふうになれたらいいよね。」
「おれは若い女がいい。」
「知ってるー。」
彼女は、楽しそうに笑っている。
くすんだ日常に、あたたかな色を塗っていく、彼女。
かたわらを通り過ぎた老人たちと犬を振り返って、二人で眺める。
「今年の桜はもう終わりそうだけど…。
また来年も、一緒に来てね。」
こちらに顔を向けた彼女から視線をはずし、その手を乱暴にとって引き寄せた。
優しく握り返された手の感触を確認して、
「…そうだな。」
今度はすなおに、返事をした。
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