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「嘘だよ」
その一言で、私の心が動いた気がした。
彼はいつも、何処か遠くを見ていた。
私の中に、誰かを、何かを探していた。
今では耳ざわりにしかならない、波の音。
晴れ渡る青空とは裏腹に、曇っていくわたしの心。
時折、大きな波が寄せては返す。
そんな私の心などお構いなしに、彼は言った。
「ごめん。嘘をついていいのは、午前中だけだったよな」
やっぱり、何処か遠くを見ている、その瞳に吸い込まれていく私の姿は、何色に染まっているのだろう。
「……知ってた。あなたが、私を好きじゃないことくらい」
私の中の誰かを愛していたのだとしても、私は、全部を嘘だと思いたくないよ。
その一瞬だけ、私の姿を映した瞳が小さく揺れる音がした。
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