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名も知れないキミは少し距離をとって私と同じように芝生の上で寝転んで同じように腕枕をして。
「ブルーシートもいいけど、直に自然を感じるのもいいね」
カサカサと音がして、見知らぬキミが私のほうへと顔を向けた。そうして、またキミは桜のほうに顔を戻していく。
「時間だけはいっぱいあるからさ、話してよ?泣いている理由」
「名も知れぬ女性なのに?」
「それでも、見て見ぬふりなんてできないよ。桜がきれいで感動している純粋な理由ならいいけど、なんか違うみたいだし」
そっと横を向く、キツネみたいな目付きで、刈り上げた髪に、前髪はワックスで固めているのかツンツンに尖らせている。
「もう少しでね、視界が半分になるんだって」
最近、目が痛いなって感じていたけれど、放っておいた私が悪いって知ってる。
「・・・・・・」
ほらね、打ち明けても微妙な感じになるから、黙って泣いていたのに。キミが話しかけるから。
「両目で見える最後の桜を焼き付くしているの。重い話したね。キミとはこれっきりだからいいのかもね」
頬の涙の跡は、もう乾いていた。
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