嘘つき

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 四月一日はエイプリルフール。嘘をついても許される日だ。  だからたくさん嘘をついた。  もちろん俺の発言が嘘だなんて、周りはみんな知っている。  毎年恒例の『馬鹿なことを口走る日』くらいに思って、聞き流してくれてたんだ。  だけど、たまたま酒場で隣り合わせた『そいつ』は違ってた。俺が言うことを鵜呑みにし、いちいち驚いたり感心したりしていた。  その反応が楽しくて、酔いに任せてかなり適当なことを言い続けた。  そうしたら、ある瞬間『そいつ』の態度が変わったんだ。 「今言ったことは本当ですか?」  これまでずっと、何の疑問も持たない様子で俺の話を聞いていたのに、突然そんなことを問うてくるから、つい、全部本当だと言い切った。そうしたら、そいつはニタリと笑ったんだ。 「確かに聞いた。全部『本当』だと。…昨日の間なら許したが、もう四月一日は終わった。その後の言葉には責任を持ってもらう。もし一つでも嘘があったら…お前の舌を引き抜こう」  いつの間にか、俺がいるのは酒場ではなくなっていて、ただならぬ気配の中、目の前の相手もみるみる違う姿に変わっていった。  嘘をついたら舌を抜く。確か地獄に、そういう断罪をする存在がいたっけ。  俺はいつから目をつけられていたんだ?  他愛もないことばかりとはいえ、嘘は嘘。それをこれでもかと口にし続けた罪で、俺はじきに舌を抜かれるらしい。 嘘つき…完  
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