「ようこそ○○○へ」

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「絶対に秘密だよ」 メイクした長髪の女の子がニヤッと笑って、後ろを振り返りどこかに去ってしまう。 ガバッと目を見開き起き上がると、そこは現実の世界だった。 夢だよね。 夢…… 自分の部屋を出ようとしたが、家であったがそこは自分の部屋だった。 「え?」 ドアを開けると、いつも廊下になっているのに、また部屋になっていた。 「なにこれ」 私は呆然と立ち尽くしていた。 「…ようこそ。自分の世界へ…」 長髪の女の子が私を導くように語りかけてくる。 「ここは、あなたの内側にある世界。ほら、見てみて。あなたが思っている世界よ」 私が思っている世界… 周りを見渡すと、私が好きなものだらけだった。 あるアイドルグループのグッズやポスター。 風景の写真。 友人、家族の楽しい映像が流れてる。 私が好きな食べ物、人が私を囲むように並んでいた。 なに、これ… しかも、最近好きになった人まで…細かく… 「あなたの好きなものばかりでしょ…うふふ」 胸まで長髪の女の子は不気味に私に笑いかけてくる。 「ここは本当に私の世界なの?」 私は立ち尽くしたまま、女の子に聞く。 「そうだよ。これもあれも…」 女の子は歩き回りながら、置いてあるものに手をかざす。 「現実だよね?」 独り言を呟いていたら、女の子は声を発した。 「そう。あなた変わらないものはあると思う?」 「…あると思います…」 私は自分の中で考えてから、あると答えた。 女の子は私の様子を窺うように見てきた。 「そう?これみたら分かるんじゃない」 にやりとまた不敵な笑みを浮かべて、小さいドアを開けた。 そこは友情・恋愛・勉強・趣味・家族などのカテゴリーで円グラフになっていた。 これみたら、分かるって…… パーセントまで表示されてるなんて。 「なんで友情の割合少ないの?」  友情の割合が少ないのはありえない。  仲のいい友達や親友も2人いる。 それなのに…30%は少なすぎる。 「この前、親友と揉めただろ。お互いの気持ちがすれ違ってる。だから、 30%。あの子とはもう無理だよ。分かり合えない」 女の子はなぜ最近あった出来事まで知っているんだ。 ただ怖い。今さっき会った女の子にそこまで言われなくちゃいけないのか。 「分かり合えないって、あなたになんで分かるの?友情は簡単に変えられない。人間なら分かることでしょ」 分かり合える。そう、人間同士なら許しあって分かり合えるはずだ。 目から映った風景の写真が視界に入る。 そう、空は白くて青が絵の具のように綺麗で眩しい。   それを見て、うん、そうだよ。人間は許せ合える希望はある。 精一杯、周りを見渡して、視点も変えれば。 「…友情だけではない。恋愛も家族も…あなたは誰も信頼していないんだよ。だから、趣味以外はどれも低い。人間でなくてもそれだけは分かる」 人間ではなくても……? 人間じゃないってこと。 じゃあ、目の前にいる女の子は何者なんだ。 「…信頼?してるに決まってる。みんな…みんな…」 人と関わる記憶が頭の中でフラシュバックで蘇る。 『ねぇねぇ、私達食べるものも好きなもの共通しているよね。 友達にならない?』 『あ、これお願い。じゃあ、あとよろしくね』 『お前が好きだっていうから付き合ってみたけど、違かかった。別れよう』 友達。 親。 恋人だった人。 の言葉が突き刺さる。 自分の話をしても共感してくれる。 けど、その共感が苦しい。 してほしくて話しているのに、どうにも窮屈で洞窟にいるような気分になる。 暗くて、寒くて…… でも、私が撮った何気ない風景の写真一枚だ。 自分で撮った止まれのマークが夕暮れになって輝いて見えた。 ここで止まっても大丈夫。そうやって止まってからまた取り戻せる。 「……信じてないよ、本当は。私も自分勝手だけど…みんなみんな…自分のことばかりで…話しても、そう、私もそう考えていた。でね、彼がねと私の話はもう終わって、その人の話になってる。人は人だって、分かってるのに。誰かと分かり合えるとどこかで信じてる…」 私は今まで関わってきた人と話す顔を思い出す。 楽しそうな顔だけど、どこかなにかある私は最高という線を引かれるってる感じがする。 「あなた、本当は人と関わりたいんでしょ。」 崩れ落ちるように泣いている私を女の子が私を知っているかのように話す。 「……っ…あなたこそ、何者なの?」 眉を上げて、女の子に睨みつけた。 「ふふふ……分かるよ、いずれ。それより、これらの世界を一つにしてみたら、どうする?」 そう言って、私を一人置いてどこかへ消えたが、声だけは聞こえた。 「一つってさっきのカテゴリーの中で一つにするの。面白いでしょ。いいと思わない?」 女の子はクスクスと笑って、歩き回り、置いているものに手で触れていた。 それを見て、私は追いかける。 「一つって…友情・恋愛・勉強・趣味・家族の中でってこと?」 低い声で女の子に確認した。 「そうだよ、……ねぇ?いいと思わない?一つだけあればそれに集中できるし、何も考えないで済む。それに楽しいことだけが残るんだよ。よくない?」 女の子はあははと大きい口を開けていたが、目は笑っていなかった。 マシンガンを手で持っているけど、打たないで持ったままはしゃいでいるようだった。 なにがそんなに楽しいんだ。 世界には何かを得て、失うことが多い。 一つの世界となったら、今よりも失うことが多くなり、得るものは少なくなる気がする。 「よくないよ! 一つのものだけにして逆に楽しくなくなると思うよ」 女の子が近くにあった椅子を適当に座って、足をバタバタさせていた。 自分が好きなモノたちに囲まれているせいか、心がホッとする。 だけど、おかしいと思っている私もいる。 「ここにいて、あなたはあなたらしくいることは自分自身が分かってるでしょ。自分の心の中で聞かなくても、もうあなたは答えが出てるんでしょ」 急に女の子は真顔になり、私に柔らかくとげのある言い方をしてきた。 答えって…出て……ないよ。 「一つだけしか選べないの? 本当に」 「そうだよ。何回も言ってるじゃないか」 「一つのものにしか楽しめなくなるのはもう変えられない。だけど、選ばなくてもいい選択肢はあるの?」 女の子はどこから持ってきたのかメロンジュースを手に持ち、飲んでいた。 「選ばない選択肢はない。どちらか選ぶことであなたの世界。そして、モノが一つになることでいろいろ生じることがあるが、世界は終わらない。そういうシステムになっている。そのシステムがある限り、一つのモノにしか対象にならない。もちろん、性別や動物は変わらない。人は変わらない。あるのは好きなモノだけ。そこをどう楽しむかは自由。さぁ、あなたはどうする?」 一つのモノしかなくて、人は変わらない。 人は変わらないけど、自分の好きなものに興味がない人はどうなるのだろうか。 「あなたの世界になったら、あなたにとって好きなものに興味ない人はずっと一人で。一人で過ごしていくことになる。5つのカテゴリーの中でどちらかを選ぶかは自由。あと、2分しかないよ」 キャハキャハと笑って、走り回った。 「時間制限あるの?!」 私は目を丸くして、女の子を見る。 「そうだよ……早くしないとこの世界終わっちゃうよ……いいの?」 「終わる?」 「そう…私が説明してから何分か経つと、私の時計が動き出す。それまでに決められなかったら、すべてが消えるの。だから~真っ暗になるんだ」 それを早く言ってよ。 私の好きなものになると、好きじゃない人はひとり。 家族でもそう。 友情だって。 恋愛も趣味も… だったら、勉強はどれも興味がある。 誰も孤独にはならない。 私の好きなものだけと勉強の好きな世界だと誰も一人にはならない。 もしかして、自分の好きなものが誰かと一緒じゃなかったら、私も孤独になるかもしれない。 なら、私は……勉強をとる。 「勉強!」 私が答えた瞬間、急に暗闇になって、何も見えなくなった。 「きみ、大丈夫? ねぇ! そこの人、救急車呼んで!」 誰かが助けを求めていた。 なにかあったのだろうか? 「早く…息してないから。AED近くにあるから」 これなんだろう。 暗い…真っ暗だ。 「あなた」 暗闇から足音が聞こえてきた。 頭に長髪のウィッグを被っていたものを手で取り、短髪の男の子が 現れる。 呼ばれて、私は振り向く。 「ようこそ、後悔と生まれ変われる間の世界へ」 男の子は不敵に口角を上げて、スカートの両端を持って歓迎していた。
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