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今日も今日とて、忙しい
「この度は誠に申し訳ございませんでした。はい、それでは失礼いたします」
頭を下げながら受話器を置くと、また新たに電話音が鳴り響く。
ふう…とひと息ついてから。
「はい。犬飼商事でございます!」
マニュアルどおり、明るく元気よく応対する。
私の名前は、堀井嘉与子。
戦国時代…はたまた江戸時代にありそうな名前だけど。
現代の江戸・丸の内で働くOLだ。
犬飼商事という繊維の総合商社で、テレオペのインバウンド(受信業務)に従事して早3年。
お客様からの注文、質問、クレーム、資料請求など、ありとあらゆる問い合わせに対応している。
布団から制服などの繊維資材をなんでも扱う会社なので、注文の電話がひっきりなしにかかってくる。
特に月曜日の朝はヤバい。
ハアハアと息切れするほど、忙しい。
電話が落ち着いても、今度は週末に入ってきたメールに返答しなければならない。
週末になるとテレビ通販で購入する人が、グンと増えるからだ。
そうこうしている間に。
「ホリカヨー! まだ入力終わってないのー?」
「すみません、今やります!」
「急いでって言ってたでしょー!!」
先輩の川内さんからお叱りが入った。
すみませんすみません、とコメツキバッタのように頭を下げる。
コメツキバッタ……見たことないけど、きっと私のほうが態度も角度もサマになっているはずだ。
「ホリカヨさん、お電話でーす」
隣の席の、ひとつ年下の美玲ちゃんが内線をまわしてくれる。
美玲ちゃんは、いわゆるオシャレ女子。
クールで表情も乏しくて何を考えているのかわからなくて、ちょっと怖がられているけれど。実は良い子だと思う。
「あ、ありがと。……ハアハア。お電話代わりました堀井です」
「受注書まだですか? 今日の午前中が〆ですけど!」
……経理部の笹野さんからだった。
いや、こっちこそ初耳ですけど!
頭の中が真っ白になる。
この人はすぐ他人を責めるような口調で言うものだから、いつのまにか私のせいになることが多い。
とはいえ、やらなければならない仕事であることは間違いないので、電話を切った後、カタカタカタと必死になってキーボードを打ちはじめた。
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