恋のゆくえ

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社員旅行当日は快晴だった。 絶好の登山日和といったところか。 東京近郊で電車で行ける小さい山。 といっても標高500メートル以上はある。 現地集合で、みな同じレインウェアを着て、最寄り駅に集まる姿はなかなかにシュールだった。 2人ほど欠席したが、それ以外はみな出席。 川内さんも厚化粧をして、気合が入っている。 驚いたのが美玲ちゃんだ。 本格的な山ガールになっている。 「私、山好きなんですよ」 かよわそうな美玲ちゃんを、フォローしながら隙あらば口説こうとしていたらしきメンズたちは、美鈴ちゃんの本気の登山姿を見て少し落胆している。 「さっさと登っちまいましょ」 「お、おー!」 美玲ちゃん扇動で、登山口まで行く。 郡司部長は?とキョロキョロ探すと。 (あ、いた!) 柏木くんやら他のメンズたちに囲まれている。 石井課長もいたりして、中堅男子社員が多めで安心する。 それなのに…。 「私も一緒にいいですか?」 そのグループの中に、明日香がひょん、と参加した。 (な、なななぬー!!) 「矢島、参加してもいいんだけど。俺たち、けっこう早いペースで行くよ?」 柏木くんが若干迷惑そうに言う。 「大丈夫だよ。私、陸上部だったもん」 「陸上と登山は別もんだけどな」 郡司部長が口をはさむと。 「えへへー。登れないときは郡司部長にフォローいただきたいです♡」 …嫌な予感的中。 明日香は……郡司部長に矛先を変えた。 「なんで俺限定なんだよ。他の奴に助けてもらえば」 郡司部長はつれなく返す。 グッジョブ! 私、あなたのそういうところが大好きです。 「……」 固まる明日香を置いて、メンズは登りはじめた。 (ふ、ふう……よかったぁ) 「ホリカヨ~!なにやってんの? 早くいくわよ」 辻本さんたち元・大奥の方たちが私に呼びかける。 「すみません」 急いで駆けよった。 (あれ?) その中に松村係長がいる。 相変わらず、別格のきれいどころだ。 細い道を1~2人ずつ、縦に並んで歩いていく。 私たちのコースは、初心者用で比較的登りやすいと…言われている。 私は普段の運動不足がたたって「ハアハア…」と息が荒くなってしまう。 後ろで、辻本さんと松村係長が話す声が漏れ聞こえてきた。 「郡司くんってば相変わらずよね」 「はい。イギリスから戻ってきても、まったく変わらなくてビックリです」 「元カノとしてどうなのよ?」 え……。 辻本さん、切り込むなあ…! 「私なんか眼中に入ってないと思いますよ。あいつは仕事命だから」 あいつ呼ばわりで、親しげだ……。 同期だから仕方がないのか。 でも安心する。 付き合ってるわけじゃないってことがわかって。 「これから先も、女に夢中になるってことないんじゃないかな。一生独身でも構わないってタイプだから」 そ、そうなのかぁ……。
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