恋のゆくえ

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一瞬のことだったけれど、倒れこむ瞬間に、私の頭を抱え込まれたのがわかった。 浅い場所だったから、ゴツゴツした岩や石にぶつかって「痛いっ」と叫んでしまう。 「きゃああ! すみませんすみません!」 私は慌てて、郡司部長の腕の中から離れようとして。 「うわぁ!」 川の流れに足をとられて、またもや転倒した。 「……なにやってんだよ」 頭上から呆れた声が聞こえた。 「びしょ濡れです……」 「見りゃわかる」 「すみません……」 郡司部長は、私の腕をつかむと川辺まで引っ張っていった。 巻き込んでしまって申し訳なさすぎて、顔が上げられない。 「大丈夫ですかー?」 先に出発していた若い営業メンが戻ってくる。 郡司部長がいないとなって探しにきたのだろう。 私は…くしゅん…と、くしゃみをした。 郡司部長は私の姿を振り返って一瞥するなり、リュックからレインパーカーを取り出して放った。 「着とけ」 郡司部長自身が今まで着ていたレインパーカーだ。 ……え。 「でも……」 「いいから早く着ろ!」 「??」 と思いながら羽織ろうとして、胸元を見ると。 青いブラジャーが、白いTシャツにくっきり浮き上がっていることに気づいた。 (あ……だから…か…) 私は…いそいそと着こんだ。 私もリュックの中にあるけれど、せっかくの機会だから……で、郡司部長の温もりをかみしめる。 (あったかい。それに少し…香水の匂い…) じーん、としていると。 「ほら、さっさと行くぞ」 促された。 「はい!」 私たちは早歩きで、その営業員のもとに向かった。
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