恋のゆくえ

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「ホリカヨってば、すごーい」 「郡司部長に抱きつくわ、川のなかに落っことすわ。やりたい放題じゃん」 「コントみたいだったわ~」 老舗料亭の宴会の席で。 先ほどから川内さんたちに、ちくちく嫌味を言われている……。 私たちはあの後、濡れた体で急いで山を登り、スパに飛び込んだ。 スパとか着替えとかなかったら、どうなっていただろう。 軽く身震いする。 「蛇が怖いって、あんた。アレ、ナマズだったよ?よく見なさいよ」 「キャーキャー言って、郡司くんに抱きつきたかっただけじゃないの~?」 半分妬みやっかみで、今度は御目見えお局さんたちから、からかわれる。 蛇……なんでダメなのか。 ある日突然ダメになった。 手が熱くなる同じタイミングだったような……。 うー。思いだそうとすると、頭が痛くなる。 郡司部長は私にひきずられて倒れる瞬間、私をかばって下になってくれた。 大きい石にぶつかったんじゃないかな。 あそこゴツゴツしてたし。 怪我してないかな。 郡司部長はお風呂上がりでさっぱりした顔をして、今は白ワインを楽しんでいる。 みんなでワイワイと…楽しそうに。 明日香が隣にちゃっかりいるのが…悔しいけれど。 仕方がない。私はもう…今日は申し訳なくて近づくことができない。 あとで[ごめんなさい]とLINEで言おう。 トイレに行こうとしたら、美玲ちゃんが酔っ払った営業の男につかまっていた。 可愛いね、付き合わない?とかなんとか言われている。 美玲ちゃんは、とてつもなく嫌そうだ。 (助けなきゃ!) 口をひらこうとした瞬間。 柏木くんがやってきた。 「平野、お前飲みすぎ!」 2人のあいだに入って、やんわりと引きはがす。 美玲ちゃんと柏木くんの視線が絡み合う。 美玲ちゃんは軽く頭を下げると、そのまま走っていった。 「ミレーちゃんかわいい。しゅきしゅきー」 「はいはい。可愛いね」 柏木くんが酔っぱらい営業員を介抱しながら歩いていく。 もしかして、柏木くんの好きな人って美玲ちゃん?! 美玲ちゃん、確か彼氏にカミングアウトしなきゃ、って言ってた……。 …柏木くんが好きになってしまいましたって? はあ…すごい。 でも…すごくお似合いな気はする。 席に戻ると、飲み会は酔っ払いの巣窟と化していた。 石井課長はドジョウすくいをしている。 明日香は笑い上戸と化している。 辻本さんたちは真っ赤な顔でワイ談。 川内さんは営業メンズにすり寄っては迷惑そうな顔をされていた。 ひ~。営業部の飲み会って半端ないわ。 松村係長はそういう様子をじっと見ながら、ロックのウィスキーを口に含んでいる。 「英里子、飲みすぎだぞ」 郡司部長が松村係長の手からグラスを取り上げた。 「……放っておいてよ。私のことなんてもう…どうでもいいんでしょ」 「……どうでもよくない。……大事な同期だ」 「私はまだ」 「…いまここで話す話じゃない」 郡司部長は困った顔をして去っていく。 松村係長は両手で顔を覆った。 へ~。 松村係長って、案外と泣き上戸なんだな~。 って違う! 英里子って言ってた。 あの2人、本当に…恋人同士だったんだ。 胸が痛い。ジクジクする。 松村係長、本当に未練たっぷりだ…。 そうか……郡司部長は……松村係長クラスの女性ですら振り向かないんだ。 私を女性として見て、振り向いてくれることなんて……99%ないのでは? 本当に師弟愛でいくしかないのかも……。 私は深いため息をついた。
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