45人が本棚に入れています
本棚に追加
「ホリカヨってば、すごーい」
「郡司部長に抱きつくわ、川のなかに落っことすわ。やりたい放題じゃん」
「コントみたいだったわ~」
老舗料亭の宴会の席で。
先ほどから川内さんたちに、ちくちく嫌味を言われている……。
私たちはあの後、濡れた体で急いで山を登り、スパに飛び込んだ。
スパとか着替えとかなかったら、どうなっていただろう。
軽く身震いする。
「蛇が怖いって、あんた。アレ、ナマズだったよ?よく見なさいよ」
「キャーキャー言って、郡司くんに抱きつきたかっただけじゃないの~?」
半分妬みやっかみで、今度は御目見えお局さんたちから、からかわれる。
蛇……なんでダメなのか。
ある日突然ダメになった。
手が熱くなる同じタイミングだったような……。
うー。思いだそうとすると、頭が痛くなる。
郡司部長は私にひきずられて倒れる瞬間、私をかばって下になってくれた。
大きい石にぶつかったんじゃないかな。
あそこゴツゴツしてたし。
怪我してないかな。
郡司部長はお風呂上がりでさっぱりした顔をして、今は白ワインを楽しんでいる。
みんなでワイワイと…楽しそうに。
明日香が隣にちゃっかりいるのが…悔しいけれど。
仕方がない。私はもう…今日は申し訳なくて近づくことができない。
あとで[ごめんなさい]とLINEで言おう。
トイレに行こうとしたら、美玲ちゃんが酔っ払った営業の男につかまっていた。
可愛いね、付き合わない?とかなんとか言われている。
美玲ちゃんは、とてつもなく嫌そうだ。
(助けなきゃ!)
口をひらこうとした瞬間。
柏木くんがやってきた。
「平野、お前飲みすぎ!」
2人のあいだに入って、やんわりと引きはがす。
美玲ちゃんと柏木くんの視線が絡み合う。
美玲ちゃんは軽く頭を下げると、そのまま走っていった。
「ミレーちゃんかわいい。しゅきしゅきー」
「はいはい。可愛いね」
柏木くんが酔っぱらい営業員を介抱しながら歩いていく。
もしかして、柏木くんの好きな人って美玲ちゃん?!
美玲ちゃん、確か彼氏にカミングアウトしなきゃ、って言ってた……。
…柏木くんが好きになってしまいましたって?
はあ…すごい。
でも…すごくお似合いな気はする。
席に戻ると、飲み会は酔っ払いの巣窟と化していた。
石井課長はドジョウすくいをしている。
明日香は笑い上戸と化している。
辻本さんたちは真っ赤な顔でワイ談。
川内さんは営業メンズにすり寄っては迷惑そうな顔をされていた。
ひ~。営業部の飲み会って半端ないわ。
松村係長はそういう様子をじっと見ながら、ロックのウィスキーを口に含んでいる。
「英里子、飲みすぎだぞ」
郡司部長が松村係長の手からグラスを取り上げた。
「……放っておいてよ。私のことなんてもう…どうでもいいんでしょ」
「……どうでもよくない。……大事な同期だ」
「私はまだ」
「…いまここで話す話じゃない」
郡司部長は困った顔をして去っていく。
松村係長は両手で顔を覆った。
へ~。
松村係長って、案外と泣き上戸なんだな~。
って違う!
英里子って言ってた。
あの2人、本当に…恋人同士だったんだ。
胸が痛い。ジクジクする。
松村係長、本当に未練たっぷりだ…。
そうか……郡司部長は……松村係長クラスの女性ですら振り向かないんだ。
私を女性として見て、振り向いてくれることなんて……99%ないのでは?
本当に師弟愛でいくしかないのかも……。
私は深いため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!