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社員旅行が金曜日で、土日を挟んだといえ、月曜日、私は風邪をひいて休んでしまった。
金曜日の夜、LINEで郡司部長にお詫びメールを送ったが、既読になったものの返答はない。
(師弟愛どころじゃないよ。嫌われたかも……)
ズーンと落ち込みながら、布団にもぐっていると。
堀井整骨院のほうから大きい声が聞こえてきた。
ん?言い争いをしている?
「?」
のろのろと起きだして、店舗のほうに行く。
メガネをかけた男が笑いながら、待合室に座っていた。
受付にいる孝美さんに話しかけている。
「おふくろも死んだし、もう戻ってきていいんだから」
「……」
「お前が経済的に苦しいのは、探偵に調べさせてわかってる。陵のためにも援助してやるって言ってんの」
「あ、あの……ですね」
父親が口をはさむと。
「あなたは黙っててください。これは孝美と俺との問題なんで」
…もしかして、孝美さんの元旦那?
「こんな裏びれた商店街にいて何のメリットがある? やり直そう。孝美」
孝美さんはずっとうなだれている。
「私は……」
泣きそうな顔で父親を見つめる孝美さん。
お父さん!言って!
「今までお世話になりました。ほら行くぞ。いつまでもここにいたら迷惑だ」
孝美さんは…じっとしていたが、迷惑といわれてよろよろと立ち上がる。
2人で出ていこうとしたとき。
「ちょっと待て!」
父親が叫んだ。
「何なんですか、あなたには関係ないでしょ」
メガネの男が、嫌な笑い方をする。
「いや、関係がある! 孝美さんを愛する1人の男としてあなたには渡したくない!」
言った!
お父さん、ついに言った!
私は両手で口を押えて、ワナワナと震える。
孝美さんも驚いた顔をしている。
「でもねえ。この堀井整骨院でしたっけ?経営状況が悪いじゃないですか。孝美たちを養えるんですか?」
「そ、それは……」
ひるんじゃダメ!
「孝美たちの幸せは何かを考えてください。私は陵の実の父親です。子どもには実の親が一番でしょう。孝美だって。一度は愛し愛されて子供をなした仲なんだ。もう一度振り向かせる自信はあります」
陵の実の父親。
愛し愛されて子供をなした仲。
それを聞いて、父親はその場に崩れ落ち、膝をついた。
孝美さんが「待って」といいながら、男に連れられていく。
「お父さん…!」
私はうなだれる父親のそばに寄った。
「だからダメなんだな。俺は……お前の母親にも逃げられて」
私の肩がビクッとする。
「不甲斐ない男、父親…で悪いな……」
涙をポタポタと床に落とす。
「お父さん……」
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