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水曜日のマッサージタイム。
郡司部長に引越のことをさっそく話する。
家が近くなるので延長も可能ですよ!
と言おうと思っていたが辞めた…。
延長=もう少し長く一緒にいたい、のが本音だがこの流れでいくと、延長=お金を稼ぎたいだけ、と思われる可能性がある…。
「この部屋がいいね、って話し合って決めました」
「……」
「……」
長い沈黙のあと、
「…………誰かと住むのか?」
郡司部長が聞いてきた。
「はい、同じ営業部の鈴木美玲ちゃんと」
「ああ、あのフランス人形みたいな……」
フランス人形!
いいなぁ、そんな風に思ってもらえて。
「柏木とはどうなった?」
「……へ?」
「告白したんだろ」
「してませんよ!」
「あいつ、この間の社員旅行で、堀井みたいなのが好きって断言したらしいぞ」
「フーン」
「フーンって、お前なぁ。嬉しくないのか?」
「別に」
天然くんだし、誰にでもそういうこと言うんじゃないかな。
「あんなに好きだ、って言っておいて……」
郡司部長は少し呆れていた。
だって、好きな人が変わったんだもん。
と言おうかと思ってやめる。
…告白になってしまいそうだ。
郡司部長の右肩部に触れたとき。
「いたっ」
郡司部長が顔をしかめた。
「す、すみませっ…ん?」
痛がった場所を見ると、青タンのような痕がついている。
「っ!! これって……私を…」
川に落ちたときに私をかばって怪我したあと?
「いや…どっかにぶつけたんだ。お前のせいじゃないから……って何してる??」
私は後ろから手を伸ばして、郡司部長の胸前のボタンを外して、Yシャツを脱がせにかかった。
(だってこんなのって……!私のせいで…!)
「やめろって!!」
郡司部長は必死に抵抗する。
「上半身は私が担当なんでっ!」
無我夢中の私は、叫んだ。
「?? は?上半身?」
「脱いでください!」
「やだよ。ここレンタルスペースだぜ?」
「じゃあっ!手当てさせてください」
私は手を肩から少し離して『気』で治療する。
お腹が痛いときとかに、おヘソまわりに両手で暖めるとなんとなく痛みが減るような気がする。
そのときは『手当て』をしているのだという。
「すみません……」
「堀井のせいじゃない。受け身をとれなかった俺の…力不足だ」
キューン!
この感情はなんというのだろう。
愛おしくてたまらない。
背後から……抱きつきたくなる。
でも私たちは、上司と部下の関係。
(私、あなたのことが大好きです…)
そう思いながら、私は郡司部長に、愛という名の…熱い熱い『気』を注入した。
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