桜の公園

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 興奮して、一生懸命話していたアゲハさんが、ふいに話を止めた。俺は、自分の顔が真っ青なことに気づいた。俺は、「弔い」という作品が千冬の不登校に関係しているかもしれないこと、千冬が父と父の知り合いで行った花見の直後から様子がおかしくなったことを話した。その話を聞き、アゲハさんの瞳が輝いた。 「なら、千冬ちゃんの不登校の原因になる、花見で起こったことが分かれば、『弔い』の作品の背景も分かるし最高だね。ねえ、早く千冬ちゃんに会いたいな」  アゲハさんが千冬と趣味が会い、千冬の作品を気に入ってくれるのは理解した。けれど、作品の背景を知ることは千冬の痛みの中心にズカズカ土足で踏み込むことだ。俺は結局オーケーできないまま、彼女とは別れた。  帰宅後、俺はベッドに寝転がり、左衛門さんの人形工房のホームページを見ていた。ホームページには、売り物の人形が写真付きで掲載されている。その中に、アゲハさんの作った物が増えていた。意外だった。昼間話した彼女のイメージは陽気そのもので、リカちゃん人形のような女の子らしい可愛い作品を作るのかと思っていたのだが‥‥。彼女が作ったと思われる作品は、ハッキリいっておぞましかった。虚ろな目、血の気のない白い肌、色あせたドレスの人形たち。人形には、千冬が不登校時代に作った作品と共通する暗さが漂っていた。俺は、左衛門さんに、アゲハさんを千冬に会わせてみたいと電話で返した。それから、彼女と大学で直接話をし、彼女の作る人形も見たと伝えた。 「アゲハくんは、ああ見えて繊細な子でな。不安なことは胸の内に隠してしまう子じゃ。アゲハくんなら、もしかしたら、千冬くんが秘めた悩みを汲み取り癒せるかもしれんぞ」
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