桜の公園

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 アゲハさんと千冬の対面は、とても緊張した。部屋に籠りたがる千冬を何とか説得し、リビングのソファーに座らせることに成功した。 「ねえ、あの女の人誰…‥」  不安げにアゲハさんを見つめる千冬に、アゲハさんが背を低くしてゆっくり近づく。囁くような静かな声で、アゲハさんは妹に自己紹介をした。それから、一方的に自分の話を淡々としていく。困惑した表情のまま固まっていた妹の表情に変化があったのは、アゲハさんが人形の話を始めてからだった。アゲハさんは、人形作品を見る時、その作品の背景や作者の心理状態を想像するらしい。千冬の『弔い』の作品を、彼女は自身の過去と重ねて見ていた。友人が病死した過去と彼女がその時感じた痛みと悲しみが、「弔い」の作品に受け入れてもらえた気がして勇気をもらったと、彼女は熱心に妹に伝えていた。黙ってアゲハさんの話を聞いていた千冬が、その時突然豹変した。肩を怒らせ、テーブルの上にあったぬいぐるみをアゲハさんに思いっきり投げつけた。アゲハさんは、妹が怒った原因が分からず、ただオロオロしている。 「あの不幸な作品を褒めたりするな!綺麗に解釈して美化して。何なの、何なのよ!パパが人殺しをした作品を見てヘラヘラして気持ちが悪い。絶望したアタシの身代わりの女の子の表情に何も感じなかったのなら、あんたがアタシの作品を見る目はゼロだったってことね」  物凄い勢いで捲し立てると、千冬は足音をドンドン響かせ、二階の子ども部屋に閉じこもってしまった。誰もが唖然としていた。それにしてもどういうことだ?父が人殺しとは。妹は何やら大きな勘違いをしているらしい。
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