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「ごめんなさいね、私が無神経なことを聞いてしまったばっかりに‥‥」
確かに、アゲハさんは千冬の地雷を踏んでしまった。けれど、そのおかげで、少し前に進めるかもしれない。
その後、リビングに残った母と俺、アゲハさんと左衛門さんは、千冬がなぜ父が人殺しをしたと勘違いしたのかを話し合った。
「春十くんも奥さんも知っておると思うが、周三は殺人はやっとらん。花見で起こったことは、恥ずかしながらみんな酔っ払っとって何も覚えとらんし」
当時花見に同席していた左衛門さんが言う。
「まず、殺人と勘違いするような事件があったのなら、忘れることはないのだと思うけれど」
母が困ったように言った。アゲハさんはというと、先程から何やらスマートフォンを操作し、考えにふけっている。俺は恐る恐る彼女が何をしているのかを除いた。それは、左衛門さんの人形工房に展示された、例の「弔い」人形だ。
「あたし、この作品の男性を見たとき、亡くなっている人だと思ったの。けれど、別の解釈も出来るはずよ」
「花見……地面に仰向け……。もしかして、この人は酔いつぶれて倒れた人ということか!」
隣で俺とアゲハさんの話を聞いていた母が、思い出したように話始めた。
「そういえば、旦那の大学時代の友人にお酒に弱い人がいて、何杯か飲んだあと急に具合が悪くなって倒れたんだわ」
「あの後、みんなでソイツの家族に連絡を取って迎えに来て貰ったんじゃったのお」
だんだん話が見えてきた。けれど、もう2年前の話で、しかも花見参加客は酔っていたため、記憶に自信はなさそうだ。母は、単身赴任中の父に電話をかけた。
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