桜の公園

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「もしもし、あなた、二年前の花見のことなんだけど」  みんなにも話の内容が聞こえるように、スピーカーに設定された受話器から父の声が流れてくる。 「花見で酔って倒れた?ああ、すぅさんのことか。すぅさんが娘家族と暮らすから気軽に遊べなくなると聞いて、思いっきり騒いだなあ。ついつい酒を飲ませすぎて、すぅさんが酔いつぶれた時は焦ったよ」  母は、千冬が父を殺人犯だという盛大な勘違いをしていると説明した。これには父も驚いていた。明るい声のトーンが、真面目な調子に変わる。 「もしかして、葬儀社の車を見て思い違いをしたかもしれないな」 「どういうことかしら?」 「すぅさん家は、葬儀屋さんなんだよ」  父は、すぅさんが酔いつぶれた後、奥さんに迎えに来てもらうよう連絡したそうだ。すると、奥さんは急いで会社の車で迎えに来たそうだ。何でも、あまりに急いだ為に、間違えて職場用の霊柩車で来てしまったそうだ。通常なら、こんなことがあれば、周りは騒然とするだろう。しかし、酔った客が多かったのと、花見で変わった行動をする人が珍しくない為、記憶から消えてしまったそうだ。 「そうか…。おそらく千冬は、酒に毒でも仕込んですぅさんを殺したと思ったかもしれないな…」 落ち込む父を、俺は必死で慰める。そもそも、勝手に勘違いをし、自分の殻に篭ったのは千冬の方だ。彼女の方から、父を問いただすなりすれば、こんなややこしいことにもならなかったはずだ。 「千冬ちゃんが不登校になった原因は分かったけれど、どう彼女に伝えましょうか」 アゲハさんが、困った様子で言った。今更俺や母が説明しても嘘っぽいし、張本人の父から話を聞くのはもっと駄目だろう。となれば、死んだはずのすぅさんに直接会わすのが一番だろう。
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