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「千冬、ツクシを摘みに行こう」
話し合いが終わった後、自室にいる妹に声を掛けると、迷いながらも、良いよと承諾してくれた。その返事を待ってすぐ、俺はすぅさんと連絡を取った。
すぅさんは、俺が千冬の身に起こったことを伝えると、驚くよりカラカラと愉快げに大笑いした。
「いやあ、そんな面白い解釈をしたのか、チイちゃんは。怖がりだからチイちゃん、霊柩車見てビビったんやろうなあ」
すぅさんも、俺と千冬の近くでツクシ摘みをしてほしいというお願いを受けてくれた。これで、きっと千冬は不登校から脱却できるだろう。
日曜日、俺は千冬を連れて、山登りに出かけた。毎年家族で登る、お馴染みのところ。春はツクシや蕗の薹、秋には筍がたくさん収穫できる。人に見られるのがとても苦手な千冬は、俺しか側にいない状況に安堵して、鼻歌なんか歌い出した。くるみ割り人形のバレエで使われている楽曲だ。なかなかに渋い。食べごたえのない小ちゃなツクシばかり、可愛いと喜んで摘んでいく千冬は、久しぶりに無邪気な笑顔だった。その時、すぅさんたちの家族が、ぞろぞろと近くまで登ってきた。途端に千冬は、地蔵のように固まってしまう。
「ここはいい景色だね!ツクシもたくさん生えていて、登ってきた甲斐があったよ」
すぅさんは、はじめは奥さんや娘夫婦とのおしゃべりに夢中だったが、俺を見るなり、嬉しそうに話しかけて来た。
「春十くん、大きなったなあ。後ろにいるのは千冬ちゃんかい?お母さんに似て、べっぴんさんになったねえ」
すぅさんに話しかけられても、千冬は頷くことすらできず、ただ緊張で、目をパチパチさせるだけだった。話をするうち、意気投合して、すぅさん家でお昼を食べさせて貰うということになった。これももちろん、計画通りだ。
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