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「懐かしい!」
階段脇に飾られた、多くの写真。すぅさんはその中から、俺の父が写ったものを何枚か選びだした。
「君のお父さんとはよく遊びに行ったね。最後に遊んだのは、二年前の春だね。あの時は本当にお騒がせしちゃったね!ただ僕は酔いつぶれただけなのに、妻が焦って車で、、しかも間違えて会社用の霊柩車で迎えに来るもんだからさ」
そこで、すぅさんも俺も、千冬の顔色をちらと伺った。彼女は、ショックを受けて、混乱した顔をしていた。死んだと思ったはずのすぅさんが生きていて、しかも父が人殺しは全て自分の勘違いと分かれば当然だ。俺たちは、千冬の反応に気づかないふりをして、ただ気楽に話すふりを装った。
☓☓
大学では、あれからアゲハさんとは、仲の良い男友達として付き合っている。アゲハさんには、すぅさん家に、千冬と訪れたことは既に話していた。彼女には、千冬が新たに作り上げた人形を見てもらいに来たのだ。弔い人形は、千冬の手により粉々にされた。そして、別の人形として生まれ変わったのだ。
「旅立ち」というタイトルがつけられた人形は、やはり花見をモチーフにしたものだ。翼を生やした長身の男性の背中を、送り出すように押す、もう一人の人物。そして、大きな桜の木の影で、ひっそりと二人を見守る少女。
「この人形を作ったということは、千冬ちゃんはもう学校に行けてるのよね」
明るく尋ねられ、俺は返事に詰まる。たとえ不登校の要因がなくなったとしても、千冬は今更学校に戻るのは厳しい。もともとコミュニケーション能力が欠如しており、環境に馴染むのが遅い彼女だから、仕方がない。
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