俺に精算させないで

2/34
前へ
/34ページ
次へ
 ──カチ……カチ…………。  一人だと、マウスの音がいやに大きく聞こえる。  画面に映るのは、『あの時代』の写真。  静かなので、自分の呼吸の音やマウスの音くらいしか聞こえない。しかしそれが逆に、心への重石を感じ取るのを加速させていた。 「………………斎藤…………」  思わず口から彼の名前がこぼれ落ちる。  ハッ、と思ったが、訂正はしなかった。  忘れると自分に言い聞かせていたが、やっぱり………………。 「俺には……無理だよ………………」  画面が涙で歪んで見える。  口が震え、嗚咽しか出てこない。 「俺……おれぇ……ぐすっ…………」  袖で涙を拭おうが、涙は次々と溢れ出す。これ以上は拭けないと、袖がびしょびしょになってしまうがお構い無し。涙を流すことが斎藤のためになるのなら、たとえ脱水症状になろうとも、俺は遠慮なく涙を流し続けるだろう………………。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加