俺に精算させないで

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 ──────────  ─────  あの日──密輸グループを捕まえようと忍び込んだ日より、前。俺……上原と斎藤の二人は、警察官の中でも有名な凸凹コンビだった。  運動音痴と、運動神経抜群。  小さいのと、大きいの。  優しいのと、厳しいの。  好きで溢れているのと、ストイックなの。  何もかもが正反対だったけど、連携させると最強だった。  ──そう、俺たちは『最強コンビ』だった。 「なぁ!斎藤」 「ん?」  あの頃、俺はまだスーツ姿だった。  あぁ、そうだとも。俺は斎藤を失って、自暴自棄になって、スーツを脱いだんだ。「人一人助けられないなんて、警察官失格だ」と落ち込み、自分なんて警察官じゃない、と、スーツを着なくなった。  それでも、仕事は仕事。  毎日署に出勤し、我が国の人間たちを守る仕事をする。姿とか精神状態なんて、犯罪者たちは考えてくれない。  俺は何年も何年も、空っぽのまま、最悪の精神状態で警察官として働いていた。  ……そんなことはあの頃の俺は知らない。  記憶の中の俺は、愚かにも相棒に笑顔を向けた。 「今度、あの店で新作のケーキが出るんだけど、一緒にどうかな?」 「一人で行ってこい」 「ええー!?いつもそればっかり!あそこのは本当に美味しいから、次誘ったら今度こそ一緒に行こうって約束したじゃないか!」  俺は頬を膨らませた。  確か……そう、山野って人が経営してるケーキ屋!最近子供が生まれたらしいよ。  で、そこは連日大賑わいで、ネットの評判も良いんだ!そんな店が近くにあるんだし、せっかくだから連れてってやろうと思ったのに……。 「……そうだったか?」 「そ、う、だ!」 「ハハ、覚えていないな」  俺がどう思っているのかも露知らず、斎藤は笑い飛ばす。ま、まぁ、こいつが甘いものを食べるのに賛成するとは思っていなかったけど、ここまで拒否されると悲しくなってくる。  こ、こうなったら────意地でも食わせてやる!!! 「うぐぐ……!…………はぁ……わかった……」  俺は頭を抱え、仕事に戻る。  ────なーんてな!  それでも諦め切れない俺は、今日の帰りにでもケーキ屋に寄ろうと思った。  ──もっともっと近寄って、もっともっと話せば良かった。  そう後悔しているのは、『今』だからだろう。
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