本音は、

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酒は飲んでも飲まれるな、というけれど。 「…はぁ」 両手には、缶ビールの入った重たくて仕方ないビニール袋。 何が悲しいって、私はお酒が飲めないってこと。 なのに、買い出しに行かされるなんて。 これも仕方ないのだ、じゃんけんに負けたんだから。 顔を上げてみれば、夜空の合間に桜の花びらが舞い込んでくる。 きれいだな、でも、ビニールが手に食い込んで痛いな、そんな葛藤の中また深いため息をついた。 「先輩」 「あれ、来てくれたの?」 「酒、足りなくなっちゃって。迎えに来ちゃいました」 「あぁ、そう」 「きれいですね」 「…へぁ!?何が!?」 「何、変な声出してるんですか。夜桜の話ですよ」 「え、あ、うん。そうだね」 さりげなく、荷物を持ってくれるのも。 相手が私じゃなくたって、彼は優しいしスマートだ。 こういう時、アルコールが入ってたら、素直になれるのだろうか。 私には、一生経験出来ないことだ。 あーあ、なんか悲しくなってきちゃった。 「先輩」 「…なあに?」 「本音ですよ、さっきの」 「あぁ、お酒が早く飲みたいって話?」 「きれいだ、って」 「あぁ、夜桜ね。そんなに、楽しみにしてたんだ」 「そうですよ。出来たら、来年はふたりがいいんですけど」 舞い散る桜の花びらの合間から覗く、頬を染めている彼は、果たして。
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