漫画描きたいんだけどさ、あのさ、

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漫画描きたいんだけどさ、あのさ、

あれから2ヶ月近く経った。 部活に来て、先生と先輩と後輩3人で漫画や本について楽しく語り合い(若干2名話さない人がいるが、)図書館の仕事をして、その後3人で絵を描く、という流れが習慣化した。 この温暖化の時代に教室にクーラーが続々導入されているというのに図書館にはなぜかクーラーが無かった…。なぜ? あのあれだ、たぶんこの図書館が日陰で風通しが良いせい、かも…。 いや、そんなことより、 漫画、描けてない… 顧問の先生はおじさん先生だがどうも古典が好きみたいで俺たちはただ、話を聞いているのみ。 先輩はライトノベルが好きらしく、自分が書いている小説の内容について意気揚々と語ってくれる。ファンタジー好きな俺にとってはけっこう話が合うのだが、いかんせん吹奏楽も忙しいのですぐにそちらに行ってしまう…。 で残った3人で黙々と絵を描いている訳だが、 なんか…、 二人ともしゃべらねぇ………, 雨禽乃については聞けばけっこう答えが返ってくるのだが、ヒカリに至っては聞いてもああうん、さあ?的なオンラインゲームのNPCもびっくり!な返事しか返ってこない…。 え?まさかえ?…こいつの脳に小さい宇宙人が住んでて、もうオート運転化してちょっとは考えた返事をする気がなくなったんじゃ… と、俺の漫画脳ででっちあげた設定が頭の中でぐるぐるしながらカバンの中に隠しているマヨネーズパンに思いを馳せた。 マヨネーズパンうまいよな!なんたって2個で100円だし!このまま家に持ち帰ったら妹達に食べられそうだから帰り道で食べよっと、 えっと、そうじゃなくて… 「アキノはさ、漫画の背景とか描けるん?」 「え?…背景?」 と言って天井をチラリと見て困った顔をした彼女は「ちょっと難しいかも…」とこぼした。 「それ、て全然描けないてこと?それともやればできる感じ?」 「うう…ん、やればできる思うけど…」 やればできるがやりたくないんだ、なるほど、 だが、それで後に引く俺ではない、 「じゃあさ、描いてみてよためしに、お願い、」 「……。」 嫌がるかと思ったら意外にもまんざらでもない表現でアキは描き始めた。 四角い枠に山並みと森と家々が並ぶごく普通の風景を描いているようだがどうやってバランスをとっているのか、一瞬の迷いもなく描いている。 横でヒカリもそれをじっと見て手を止めている。 「え…やっぱ描けるじゃん! ねえねえ、そしたらさ、俺がネーム描くからアキノは背景描いてよ!」 「ネーム?」 「漫画の下描きみたいなやつ、」 「下書き…」 ピンときていないようだ。いつにも増してぼんやりした顔をしている。 「ええとさ、漫画、てストーリーがあってさ、絵があるぢゃん、で、絵を清書する前までの段階のやつ、」 大体こんなの、と紙にぐるぐると適当に描き出すと雨禽乃は目を見開きながらそれを見て首を傾げている。後ろで小さくくくった髪がややこちらから見えた。 隣でヒカリが無言でそれを見ているがどういう感情なのかわからない。 もう、この2人何?! 言ってよ!言葉に出してよ! 顔に出せよ! 何が言いたいのか、 わっかんないよ! もう、 若干(どころではない、)イライラと元来の人を立てたい性格の狭間で俺は次の言葉を辛抱強く待った。そして雨禽乃が指を指して口を開いた。 「え、これって漫画?」 「そう、」 雨禽乃は紙を暫くじっと見た後、俺の顔を見て、さらに自分の紙におそらく俺が描いたネームの絵を自分なりに描き出した。 …なンだよ、それ! 彼女が紙に描き出したのはさっき描いた俺のネームを恐ろしくクオリティを上げて正確に描きあげたものだったのだ。 そ、そういうことか?! 俺が絵が下手すぎる、てことを言いたかったのか! 「全然違う…。」 ぼそ、と隣で無表情でつぶやいたヒカリを俺はなんとも言えない表情で睨んだ。 「これでいい?」 雨禽乃が描きあげたネームを俺は手元に引き寄せてああ〜となんとも言えない唸り声を上げた。 「やっぱりすごいよな…。」 「すごい…。」 2人が絵をじっと見つめるのを雨禽乃は恥ずかしいらしくモゾモゾしながら「そんなこと…」とつぶやいてる。 悔しいけど、自分に絵の才能がないことをまざまざと突きつけられた俺はため息をついた。 「ねえ…アキノさ、今度俺が作ったネームで漫画描けない?」 「え…いやそんなのできないと思う…。」 「なんで?こんなに描けるぢゃん、」 「僕、集中しないとうまく描けないし、それに漫画みたいな絵もあまり描いたことないし…」 「そんなことない、てできる、て!」 「あのさ…」 そこで突然無言だったヒカリが口を挟んできた。 「できない、て言ってるんだから無理にやらせるの、やめたら?」 「…え…。」 雨禽乃は俯いている。 俺、無茶なこといってる? こいつ何言ってんの? 絶対できると思うから言ってんぢゃん、 「ごめん…。」 揉めたくない俺はとりあえず謝罪した。 「いや、ごめんもぐ君、…自信無くて。」 俯きながら雨禽乃は言った。 ええ?自信ない?こんなに絵が上手いのにどーゆーこと? 「でもアキノなら描けると俺は思うから…。そのうち漫画描きたい。いつでもいいからさ。」 「うん、がんばるね。」 上目遣いに弱々しくそう言った彼女はいかにも本当に描けないと思っているらしい表情だった。 内気な性格やつのこと、てわからない。 なんでこんなに才能があるのに使わないんだ? 俺は何もできない、てのに、 ちょっと腹がたった。 小学校にも似たような感じのクラスメイトがいた。いつも1人で本を読んでいて話しかけても目も合わせてくれない。オドオドしていて何を考えているのかもわからない。 言えばわかるのに、 何故言わないんだ? はあ…なんか疲れたな。 その日はそれからまた黙々と3人で絵を描いて過ごした。 初めてこの部活に入ったことを嫌になってしまった日だった。
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