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プロポーズへ(俊side)
ドアから顔を覗かせた葵は今日も綺麗で、本音を言えばこのまま押し倒してしまいたいほどだが必死に欲を抑えて何でもないふりをする。
彼女に連れられてリビングへと向かった俺は、ダイニングテーブルの上に目をやると固まった。
思考が停止したという表現が正しいのかもしれない。
テーブルの上にはシャンパンボトルにペアのグラス、そして俺の大好物の葵お手製ロールキャベツと、チョコレートケーキ。
さらにはスープやサラダも並んでいて、いつもの夕飯とは明らかに違うのだということを物語っていた。
「今日、誕生日でしょ? 二十八歳の」
「葵……」
「二人でお祝いするの、久しぶりだね」
その瞬間俺は思わず葵を抱きしめていた。
ふわりと香る彼女の甘い香りと柔らかい抱き心地に、思わず目を閉じてしまいそうになる。
そして葵からの突然の告白。
たとえ以前のような燃え上がる恋心でなかったとしても、彼女が俺のことを再びに好きになってくれて俺の隣にいたいと願ってくれただけで十分だ。
さらに彼女は俺が大好きだった笑顔も見せてくれたのだ。
俺はなんて幸せ者なのだろう。
約一年ぶりの葵とのセックスは、これまでにないほど緊張した。
最後に体を重ねた時のように葵に無理強いはしたくない。
彼女には気持ち良さだけ感じていて欲しい。
久しぶりに見た葵の体は物凄く綺麗で。
この体を俺が独り占めしているのだと思うだけでとてつもなく興奮してしまう。
そして予想通り、俺は呆気なくイってしまった。
本音を言えばまだあと二回くらいはやれるはずだが、久しぶりの葵の体が何より優先だ。
俺の腕の中で小さく丸まっている葵が何より愛しい。
今度こそ、絶対に幸せにしてみせる。
心の中でそう誓った。
◇
復縁してからの俺と葵の関係は穏やかで幸せなものだった。
もちろんときおり葵の気持ちに余裕がなくなってしまうことはあったが、その度に二人で力を合わせて乗り越えてきたのだ。
心の距離が開いていた数年間を埋め合わせるように、俺たちは色々なところへ出掛けて多くの思い出を共有した。
その中で俺はいかにここ数年葵のことを見ていなかったかを思い知らされた。
たった数年の間に葵はより一層大人の女性になり、好みや考え方も変わっていたのだ。
にもかかわらず二十歳そこらの時の記憶を頼りに指輪を贈ろうとしてしまった自分が恥ずかしい。
「でも俊が買ってくれた物だから、嬉しいよ」
優しい葵はそんなことを言ってくれるが、次はもっと今の彼女に合わせた指輪を贈ろう。
いつしか俺は彼女へのプロポーズに向けての計画を立てるようになっていた。
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