あの時とは少し違うけれど

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あの時とは少し違うけれど

 そして迎えた俊の二十八歳の誕生日。  私は彼には内緒でお祝いの準備を整えた。  二十六歳の誕生日は俊が帰ってこず、お祝いも無駄になってしまった。  二十七歳の誕生日は、ちょうど別れていた時期だった。  そのため彼の誕生日をお祝いするのは実に二年ぶりである。  彼の大好物のロールキャベツとチョコレートケーキを用意して、私は彼の到着を待った。   「お仕事お疲れ様」 「お邪魔します」  もはや毎日のように訪れているというのに毎回律儀にそう挨拶する俊に、笑ってしまいそうになる。    今日のお祝いのことはまだ何も伝えていないのだ。  私は平静を装って彼をリビングへと連れていく。 「すげーいい匂いする。今日の晩御飯何作ってくれ……」  リビングへと足を踏み入れた俊は、そのまま固まった。  恐らく飾り付けられたダイニングテーブルが目に入ったのだろう。 「え、これどういう……」 「お誕生日おめでとう、俊」 「え……」  相変わらず俊は目を見開いて固まったまま、言葉すら出てこない様子。 「今日、誕生日でしょ? 二十八歳の」 「葵……」 「二人でお祝いするの、久しぶりだね」  そう言って微笑むと、俊は顔をくしゃりと歪める。  そして次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。 「しゅ、俊……苦しい……」 「葵っ……ありがとう、葵……」  抱きしめられた体からは、懐かしい大好きな香りがする。  私はその香りをもっと嗅ぎたくなって、彼を抱きしめ返した。 「っ葵……?」 「俊、そのまま聞いてて」  突然の私の行動に戸惑う様子を見せながらも、俊は大人しく私の言うことに従った。 「私、俊のことが好き」 「え……」 「最初に付き合っていた時みたいに、俊のことしか考えられなくなるような激しい気持ちじゃないの。だけど俊のことが大切だし、ずっと一緒にいたい。俊が他の女の人と一緒になるのは見たくないんだ」 「俺が葵以外のやつと一緒になるわけないだろ!」 「もう、最後まで聞いてってば」 「あ、ごめん……」  コロコロと変わる俊の表情を見上げていると、なんだか可愛く思えてくる。 「正直まだ昔のことがトラウマになってるのもあって、俊にはまた迷惑かけちゃうかもしれない。それでも良ければ……これからも俊の誕生日を一番にお祝いするのは私でもいいかな?」 「っ当たり前だろ!」  俊はより一層抱き締める力を強めた。 「俊、苦しいってば……」 「離れたくない。一瞬も離したくないぐらい好き」 「ご飯、冷めちゃう」 「あっ!」  私の言葉で慌てたようにパッと体を離した俊を見て、私は思わず笑ってしまった。 「何そのびっくりした顔、ウケる」 「葵、お前の今の顔……あの時と同じだ」 「え?」 「俺が大好きな葵の笑った顔だ」  俊はそう言うと私の後頭部に手をやりグイッと引き寄せた。  勢いよく唇が重なり合う。 「んっ……」 「あっ、ごめん……つい……」 「俊も、卒業式の時と同じことしてる」 「ああ……確かにな……」  俊は泣き笑いのような表情を浮かべた。 「葵、俺今度こそ本当にお前のこと幸せにするから。やり直したばっかで何言ってるんだって感じだけど、俺は葵と結婚するつもりだから、覚えといて」  私も涙で滲んだ目を手で押さえながら、強く頷いたのだった。
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