超・妄想【エイプリルフール】2

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丸い形の少々古めかしいちゃぶ台。最近ではもう見ない、骨董品のような焦げ茶色の天板を濡れ布巾で拭いていく。骨董品といえば、僕の名前は伊万里焼からそのまま命名されたけど、僕自身にはそんなに価値はないと思ってる。 いつもならこのちゃぶ台の辺りで騒がしく動き回るのは、少し長めの茶髪で筋肉質なイケメン、圭なんだけど今日は早坂だ。 「今日は圭、遅いの?」 早坂は毛先が跳ねてる癖っ毛をくしゃりと握り、スマホを忙しなく操作している。夕飯食べにきて圭が来るまでおあずけ中。 「うん。遅くなるって」 いつもなら夕方には帰ってくる。今日はスタッフが足りないからと、長めのシフトになったと聞いていた。 炊飯中の炊き込みご飯のにおいがリビングにまで漂ってくる。今日はたけのこご飯。 「伊万里ってさ、嘘言わないよね」 唐突な話に僕は首をかしげる。 「なんのために」 何のために嘘なんて言うのか。ずり落ちてきた眼鏡を押し上げて早坂を見ると、ずっとスマホの画面を見ている。そういえば珍しいな。早坂がスマホに熱中してる姿を見るのは初めてかも。ちなみに僕のスマホは相変わらずほったらかしで寝室に置いてある。 早坂はちらっと僕を見て、意味深にニヤッと笑った。 「伊万里、スマホ持ってこいよ」 「なんのために」 同じ台詞を繰り返す。でも早坂の物言いやその態度が気になるから持ってきた。大抵ろくでもない事なんだけど。 「持ってきたよ……あれ、メッセージが」 少し前に高校の頃の仲のいい人達と集まって、メッセージアプリでグループを作ったりした。十人くらいかな、その中にはもちろん早坂も圭もいる。通知を知らせるライトを見て、アプリを開いた。 グループのメッセージが絶え間なく更新されているらしく、目まぐるしく画面が動いている。流されていくメッセージの中に、一瞬僕の名前が見えた気がして、遡ってみた。 "ええっ! 伊万里って笑うの!?" "伊万里くんの笑顔って三年間で一回も見れなかったよね!" 「……早坂」 遡っている間にも更新が止まらない。顔をあげると早坂は、スマホを僕に向けて真剣な顔をしていた。 「ほら、伊万里。笑って」 「早坂」 どうやらカメラを起動しているらしく、ライトが光っている。 「早坂。説明」 「……はい、ごめんなさい」 僕の抑揚のない声のトーンに、静かな怒りを感じ取った早坂が、スマホをおろして謝った。
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