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早坂はスマホをちゃぶ台に置き、僕も同じように置いた。アプリは開いたまま、メッセージは流れ続ける。
「今日このグループでさ、一番面白い嘘を言った奴に飯を奢るっていう、ゲームみたいなのをやってて」
いつものようにけらけら笑う早坂。僕は「それで」とうながす。
「おれが"伊万里が今、腹抱えて笑ってる"ってメッセージ流したら、思いのほかみんな食いついて」
僕の表情がどんな時でも変わらない、無表情だという事を一番知っているはずの早坂。でも高校の頃、一番僕の近くにいたのも早坂だし、今でもつるんでいるんだから、早坂の言う事なら嘘とも言い切れないのでは、と話題になっているらしい。
「んでこれはもう、本当にしちゃったらいいかもって思って、伊万里の笑顔の写真撮ってアップしようとしたわけ」
「迷惑」
だいたい面白い嘘を言うのが目的なのに、その嘘を本当にしてどうするんだろう。きっと面白ければいいんだろうけど。
早坂の言い分をだいたい聞き終えた辺りで、炊飯器がメロディーを奏でた。ご飯炊けたね。と、キッチンに意識を向けた時。
……カシャ。
聞きなれない、でもそれがすぐになんの音かわかる、わかりやすいシャッター音がした。
「早坂」
「伊万里の横顔Get」
「早坂」
「大丈夫。みんなに見せたりしないって」
そういう事じゃない。
ちゃんと消してね、と僕はちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとした。その手に早坂の手が重なって、掴まれる。
「待って、待って。伊万里。足が痺れた」
「おとなしくしてなよ」
「トイレ行きたいんだよ」
「早く行きなよ」
どっちなんだよ、と早坂が笑う。仕方なく引っ張って立たせてやろうかと手を掴んだら、逆に引っ張り込まれた。
自他共に認める非力な僕では、早坂を引っ張る事もできないのか。逆に引っ張られれば、太刀打ちできない。結果、仰向けに倒れた早坂の上に覆い被さるように僕は倒れていた。
「伊万里に押し倒されるのも、新鮮」
うっとりした顔してないで。握った手を離して欲しい。
「眼鏡ずれてる。伊万里、かわい」
「なんか最近緩いみたい……じゃなくて」
落ちそうな眼鏡を直したいのに早坂は手を離すどころか、指を絡めて握っている。
「大丈夫、伊万里。伊万里の可愛い笑顔なんて他の奴らに見せる訳ないじゃん」
おれのなんだから、と囁く早坂。
「違うから」
そう言ってこの両手を振りほどければいいのに、どんなに力を入れて引っ張っても少し浮き上がるくらいで、ほどけない。早坂もぎっちり握っている。
「冗談、やめて」
「伊万里からキスしてくれたら離す」
「しない」
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