超・妄想【エイプリルフール】2

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早坂はスマホをちゃぶ台に置き、僕も同じように置いた。アプリは開いたまま、メッセージは流れ続ける。 「今日このグループでさ、一番面白い嘘を言った奴に飯を奢るっていう、ゲームみたいなのをやってて」 いつものようにけらけら笑う早坂。僕は「それで」とうながす。 「おれが"伊万里が今、腹抱えて笑ってる"ってメッセージ流したら、思いのほかみんな食いついて」 僕の表情がどんな時でも変わらない、無表情だという事を一番知っているはずの早坂。でも高校の頃、一番僕の近くにいたのも早坂だし、今でもつるんでいるんだから、早坂の言う事なら嘘とも言い切れないのでは、と話題になっているらしい。 「んでこれはもう、本当にしちゃったらいいかもって思って、伊万里の笑顔の写真撮ってアップしようとしたわけ」 「迷惑」 だいたい面白い嘘を言うのが目的なのに、その嘘を本当にしてどうするんだろう。きっと面白ければいいんだろうけど。 早坂の言い分をだいたい聞き終えた辺りで、炊飯器がメロディーを奏でた。ご飯炊けたね。と、キッチンに意識を向けた時。 ……カシャ。 聞きなれない、でもそれがすぐになんの音かわかる、わかりやすいシャッター音がした。 「早坂」 「伊万里の横顔Get」 「早坂」 「大丈夫。みんなに見せたりしないって」 そういう事じゃない。 ちゃんと消してね、と僕はちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとした。その手に早坂の手が重なって、掴まれる。 「待って、待って。伊万里。足が痺れた」 「おとなしくしてなよ」 「トイレ行きたいんだよ」 「早く行きなよ」 どっちなんだよ、と早坂が笑う。仕方なく引っ張って立たせてやろうかと手を掴んだら、逆に引っ張り込まれた。 自他共に認める非力な僕では、早坂を引っ張る事もできないのか。逆に引っ張られれば、太刀打ちできない。結果、仰向けに倒れた早坂の上に覆い被さるように僕は倒れていた。 「伊万里に押し倒されるのも、新鮮」 うっとりした顔してないで。握った手を離して欲しい。 「眼鏡ずれてる。伊万里、かわい」 「なんか最近緩いみたい……じゃなくて」 落ちそうな眼鏡を直したいのに早坂は手を離すどころか、指を絡めて握っている。 「大丈夫、伊万里。伊万里の可愛い笑顔なんて他の奴らに見せる訳ないじゃん」 おれのなんだから、と囁く早坂。 「違うから」 そう言ってこの両手を振りほどければいいのに、どんなに力を入れて引っ張っても少し浮き上がるくらいで、ほどけない。早坂もぎっちり握っている。 「冗談、やめて」 「伊万里からキスしてくれたら離す」 「しない」
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