四月一日に手折った蕾

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「こ、こんにゃろう…どう断ろうか真剣(しんけん)に考えちまったじゃねぇか。俺の真剣に考えた時間かえせ!」 「無理だって!何その無茶(むちゃ)ぶり」 先ほどまでの真剣な表情とは打って変わり、お茶目(ちゃめ)な笑顔を浮かべる四月朔日(わたぬき)に春野は思わず大声を出す。 あたふたしている春野に、四月朔日はからかうよう言葉を(つむ)ぎ、それに対して春野は(くや)し気に顔を(しか)めて思わず(くる)(まぎ)れの悪態(あくたい)をついた。 そんな春野の悪態に四月朔日はからからと笑いながら言葉を返す。 そしてそのままあやふやに出来事を流して、再びゲームをし始める。 結局夜までゲームを楽しみ、そろそろ切り上げるか、と春野が隣の家に帰っていくのを見送り、四月朔日は静かに部屋へと戻った。 廊下(ろうか)と部屋を仕切る戸を閉めると、四月朔日はそのままズルズルと戸によりかかったまま床に座り込んだ。 「……どう断るか、かぁ…やっぱりそうなるよね…」 うっすらと目に涙の(まく)を張りながら呟くのは、ゲームの合間(あいま)にあったやり取りの振り返りで。 四月朔日があの時発(はっ)した言葉を、本当は(うそ)にする気などなかった。 子供のころから春野に対して(いだ)いていた(あわ)い恋心。 行き場のなかったそれを、つい話の流れで告げてしまったものの、自身を見つめる(ひとみ)の奥に浮かぶ困惑(こんわく)拒否(きょひ)の感情を見つけた瞬間に、四月朔日はその言葉を嘘に押し上げるしかなかった。
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