四月一日に手折った蕾

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丁度(ちょうど)良くエイプリルフールと勘違(かんちが)いした春野に、これ(さいわ)いと乗っかって誤魔化(ごまか)した。 けれども、自分から(かか)えてきた恋心を嘘と言い切ることもできず、結局は曖昧(あいまい)に流した。 ひび割れた心に(ふた)をして、(こぼ)れそうな涙を()(つくろ)い、笑顔で春野をからかうように見せかけた。 だけどそんな(もろ)仮面(かめん)は、春野を見送った瞬間に崩れかけ、普段通りを(よそお)いながらも(あわ)てて部屋に逃げ込んだ。 四月朔日(わたぬき)は力の入りづらい足を引きずりながら、ベッドに(たお)れこんだ。 このまま泣いてしまいたかった。 泣いて、泣いて、そして涙が()れたころにこの恋心も一緒に枯れてしまえばいいと、心底(しんそこ)思った。 しかしながら、時の流れに任せて枯れるのを待つには既に心は育ちすぎている。 それこそ、さながら花開(はなひら)直前(ちょくぜん)(つぼみ)のように。 春野の明確(めいかく)な拒絶に触れたことで(かろ)うじて踏みとどまっているような(つぼみ)。 このまま抱えていくには、(あや)うい、いつ爆発するともしれない地雷の様だ。 ならば、()み取ってしまったほうが安全ではないだろうか。 そのほうが、四月朔日も(おだ)やかに接することができるし、春野も四月朔日の想いにどうこたえるか悩ませる必要もなくなる。 何より、この思いのせいで春野とぎくしゃくしてしまうのは四月朔日が嫌だった。
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