四月一日に手折った蕾

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(いま)(すず)やかな風が新たな門出(かどで)を祝うかのように舞い散る桜を運び、(あた)り一面に桜吹雪(さくらふぶき)を巻き起こす春の、始まりの日。 (すで)に入学式を終えた新入生たちは思い思いに友人と遊ぶ計画を立てていたり、家族と談笑(だんしょう)していたりと、(みな)晴れ舞台に相応(ふさわ)しい笑顔を浮かべていた。 そんな中、新入生たちとは別に3年生へと進学を果たした一組の友人は肩を並べて帰路(きろ)についていた。 「みんな元気だな。俺はもうテンションについてけねぇわ」 「まあ、入学式だったし、慶事(けいじ)だから気分が高揚(こうよう)するのも仕方(しかた)ないんじゃない?」 「そりゃそうだけどさ。せっかく半日で帰れる日なのにどこも満員で遊べやしない」 「あっはは!みんなお祝いで出かけている人たちが多いからね!遊びたいなら、僕の家でゲームでもする?」 「マジか!するする!四月朔日(わたぬき)とゲームするの久しぶりだし、早く行こうぜ!」 「急に元気になるじゃん。僕は春野のその切り替えの早さに一番びっくりしたんだけど」 幼馴染として育った2人は、昔から一緒に遊ぶことが多く、あまり他の友人と一緒に行動することはなかった。 2人の世界で完結していた四月朔日と春野にとってはそれでよかったし、それによって不利益を(こうむ)ったわけでもない。 たとえ不利益が出たとしても2人は満足しているのだから、特に離れるという選択肢(せんたくし)はなかったのだ。
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