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おしゃべりしてる間に目的地へ辿り着いた。
食堂に繋がってるとは思えない重厚な観音開きの扉を前に、必需品である耳栓を装着する。
かつて、耳栓を着けずに食堂へ入ろうとして鼓膜が破けた生徒が居たとかなんとか…
あれ、いくらポケット漁っても見つからないんだけど。
取手に手をかけて準備万端なしのぶんが目線だけで『まだです?』って聞いてくる。
やっと指先がゴムの感触を見つけ出した、そのとき。
バンッッッ
乱暴な音と共に勢いよく扉が開き、しのぶんの顔面にクリーンヒット…しかけて、慌てて襟首を掴んで引き寄せる。
すんでのところで扉はギリギリ鼻先を通過した。
危なっ。
「お前っドアの前に突っ立ってたら危ないぞ!」
こちらに気付いた途端、よく響く大きな声をあげながらその生徒は指差してくる。
ボリュームのある黒いアフロヘアと、漫画でしか見たことないような分厚い眼鏡というオリジナリティあふれるセンス。
他に間違いようのない恰好は報告書で親の顔より見た。
入学式の1週間後に転校してきた問題児。
人を指差すのは良くないので、とりあえず向けられた人差し指を握ってグーの形にしておく。
ついでにポカンと口を半開きにして固まってるしのぶんをパシャリ。
唖然とした顔なんて珍しいからちょっぴり得した気分。
あっ復活した。
「危ないのは、そちらでしょう…!」
いつも冷静なしのぶんがお怒りだ。
もしあの勢いのままぶつかってたら鼻血ぶーじゃすまなかっただろうし、当然かな。
ヒートアップしちゃったしのぶんに、アフロくん(仮)とその友達らしい生徒も加わってちょっとした騒ぎになってきた。
一般生徒の目を誰よりも気にしてるしのぶんが、集まってきた生徒たちに気付いてない。
ここは頼れる先輩の出番かな。
「はーいはい。そこまでにしときなさいな」
「そう言うお前は何なんだ?」
「あなたはなんでそんなに呑気なんですか!」
わお、飛び火。
「確かに俺らもドア前で立ち止まってたし、お互い怪我もなかったし。でもまあ、この学園の扉って大きくて重いやつが多いから、丁寧に開けようね」
頭1つ分低いところにある顔に屈んで視線を合わせ、額を軽く小突く。
びっくりさせられた分の仕返しだよ。
「分かった!次からはそうする。オレは有野天馬だ!お前らは?」
意外にも、素直で物分かりがいい。
この様子なら学園のルールに慣れれば問題なさそう。
風紀の殺人的な忙しさも、あと1週間くらいの辛抱ってところかな。
「俺は3年の喜入深晴(キイリ ミハル)。こっちのメガネっ子は御手洗忍(ミタライ シノブ)、2年生だよ」
「ミハルとシノブか。いい名前だな!仲良くしようぜ!」
「うん。よろしくね、テンちゃん」
「ほらテンマ、そろそろ行かないと。授業に間に合わなくなっちゃうよ」
「そっか。じゃあオレは行くな。オムライスが美味しかったからおすすめだぞ」
友達に腕を引っ張られ、テンちゃんが連れて行かれた。
この学園の事情を汲んで教えてあげられる友達がいるのはいいことだけど、不良っぽい子の方には睨まれちゃった。
後に残されたのは俺とふてくされたしのぶんだけ。
「とりあえず、ご飯にしようか」
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