3.都市伝説

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3.都市伝説

 白雪姫。それは、大手自動車販売メーカーから二十年以上前に発売された小型軽自動車である。その名前の通り、可憐な柔らかいフォルムが人気で、女性客に好まれよく売れたそうだ。また、燃費が抜群によかったことも人気の背景にはあった。  今はあまり走っているのをみかけなくなったが、カーラック七藤店には白雪姫が一台だけ現存していた。  わけありの白雪姫が。  もともとは事故で亡くなった女性の形見だった。といっても、この車に乗っていて事故にあったわけではなく、死因は歩行中の不運な交通事故だったという。まだ十代の若い女性だった彼女の遺族は、彼女が愛した白雪姫を手放すことを随分躊躇ったそうだが、いつまでもこのままにするよりは誰かに乗ってもらったほうが……と考え、この店に車を持ち込んだ。  ここまではまあいい。事故車というわけでもないし、問題はない。問題なのはこの後からだ。  当時としては人気の高い車種だったにも関わらず、白雪姫には買い手がつかなかった。買い手がつきそうになると決まってハプニングが起こり、契約が白紙に戻る。それが十回以上繰り返され、当時の社長、現在の会長は頭を抱えた。  持ち主であった女性の呪いかもしれない、と考えた社長は、プロの霊能者に祈祷を頼むことにした。 「ものにはどんなものにも命が宿っているからなあ。無理にいろいろするとややこしいことになりそうだから」 とは、社長の言葉として今も語り継がれているものである。  それはともかく、専門家を頼んで霊視と祈祷をしてもらったところ……霊能者が思わぬことを言い出した。 「この車にかかっているのは呪いではない。むしろ神のご加護といっていい、神々しいものです。ですからこの車は売らず、こちらに置いておくほうがよいでしょう」と。  とにもかくにも、白雪姫には注連縄が施され、店の奥の駐車場に停められることとなった。  だが……白雪姫の伝説はこれだけではない。  経緯は定かではないが、白雪姫にまつわる新たな噂が流れだしたのである。  四月一日の日に白雪姫の運転席に座り、嘘を吐くと、一つだけそれが真実になる、というのがそれである。  四月一日という日がエイプリルフールであること、また、もともとの持ち主である女性の死亡日が四月一日だったから、というのが噂の根のようではあるが、真実の程はわからない。  ただ確かなことは、その噂を信じ、運転席に座りたがる者が現れるようになったことだ。  ある者は「宝くじで一等が当たった」と口にして、事実、億万長者になったという。  またある者は、「彼氏が結婚しようと言った」と嘘をついた結果、見事ゴールイン。これはまあ……白雪姫の力かどうかは怪しいが。  いずれにしても、それ等の伝説もあり、毎年四月一日になると、噂を聞きつけた者たちが、密やかにカーラック七藤店に訪れるようになった。  一 朱鳥のように。
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