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4.もう、叶ったよ
「これが四月一日の白雪姫……。あるんだね、本当に」
毎日きちんと磨かれているために、白雪姫のカーマインのボディは艶やかに光っている。美味しそうなリンゴさながらに輝く車体を見つめ、朱鳥はうっとりと目を細めた。
「乗って、いいの?」
「いいよ。けれど店の守り神みたいなものだから、汚したり、傷つけたりは……」
「しないよ。心配なら晴くんも乗りなよ」
言いつつ、朱鳥は助手席側を指さす。俺は、と口ごもると、気弱そうな声が返ってきた。
「正直、オカルトっぽい話は苦手なんだ。だから、嘘を本当にはしたいけれど……できれば一緒に乗ってくれると嬉しい」
確かに朱鳥は、高校時代から怖い話が大の苦手だった。文化祭の出し物であるお化け屋敷ですら腰を抜かしていた彼女を思い出し、貴晴は苦笑した。
「わかった」
頷いて貴晴は白雪姫に近寄る。運転席のドアを開けて促すと、朱鳥は恐る恐る車内へ体を滑り込ませた。
ぱたり、と扉を閉じ、助手席側に回る。小さく息を吐いてから乗り込むと、運転席側に座った朱鳥がはにかんだ。
「思ったよりも狭いんだね」
「まあ。その分、小回りが利くってことで結構人気があったみたいだけど」
「イメージとしては……あれだね、白雪姫の棺みたい」
ぼそりと言われてぎょっとする。彼女の顔を窺うと、彼女はこちらではなく、フロントガラスの向こうに視線を向けていた。
白い綿帽子を思わせる陽光に照らされ、駐車場が淡く煙って見える。少しだけ、車内の空気が薄く感じられた。
「大切な人と手を繋げる毎日って……それ、あの」
裕とは別れたと彼女は語っていた。
じゃあ手を繋ぎたい相手とは、裕のことではないのか。だとしたら誰と。
頭の中では問いが渦巻いているのに口にすることを躊躇ってしまう。ええと、とこめかみを掻こうとしたときだった。
上げた手の甲に冷たい手が、つと、重ねられた。
「もう、叶ったよ」
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