吉良志津香という女

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 歩巳はとある喫茶店にいた。外は雨のせいか肌寒い。ホットコーヒーを注文し、ネットニュースをスマホで見ている。穂南の件から始まり、近くで起きた轢き逃げ死亡事件などのニュースが並ぶ。  ニュースを念入りに調べる。最近は時間があればこの手のニュースを見ている。もちろん詳しい内容は載っていない。しかし穂南の件は間違いなく自殺と断定されたようだ。 「捜査は終了だな。これで心配事がひとつ消えた」  ふっと溜め息を吐いて、コーヒーを啜った。  カランカラン──   ドアベルが余韻を残し開いた。その美しい女性は肩を濡らし歩巳の元に近づいた。 「申し訳ありません、お待たせしました。私がお呼びだてしたのに遅れてしまって」 「かまいませんよ。雨のせいで交通機関も乱れてるでしょうから。ホットでよろしいですか?」 「すみません。ありがとうございます」  歩巳はホットをひとつ追加注文した。相変わらず美しいなと思った。それに上品でもある。穂南は親友だと言っていたが何か別次元の人間に見えた。朗らかで明るかった雰囲気の穂南とは真逆な感じ。志津香はそんな女性に映った。 「それで、どうされたんですか?」 「穂南の件なんですが。理由についてもう一度お伺いできないかと思いまして」  ウェイトレスがホットコーヒーを持って来て、志津香の前に置かれた。 「その件ですが、この前伝えた通り申し訳ないですがお答えかねますが」  コーヒーを啜り、丁重に断った。これ以上はもう思い出したくないという雰囲気を醸し出した。慎重に物事を進める。 「もしかしてですが穂南。お金に困ってたとかありませんか?」 「──えっ?」  コーヒーカップを掴んだ手が一瞬止まった。 「いや、もしかしたらって思ったんです」 「そんなことはないです」  動揺したものを隠そうともう一度コーヒーを啜る歩巳。 「そうですか……」 志津香は決意したように、歩巳に顔を近づけた。 「実は私の方がお金に困ってたんです。それで助けて欲しいと穂南にお願いしたんです。私は穂南の人の良さを利用してしまったんです──」  外の雨足が強くなるのを感じた気がする歩巳。 「えっ? 急に何を? 志津香さん……」
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