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雨が徐々に強くなっていく。
「雨は嫌ですね。気持ちが重くなってしまう」
外を見ながら志津香は呟いた。コーヒーはすっかり冷めている。
「しかし、なんで今そんなことを」
「もしかして、そのせいで穂南は思い悩んでたんじゃないかと思いまして」
──本当に穂南は志津香にお願いされ、お金に困ってたのか?──
歩巳は一瞬、あせり黙りこくってしまった。
「やっぱり……私のせいで……どこかで借金なんかしたんじゃないですか? 教えてください。加藤さん」
「そんなことはないです。お金に困っていたなんて聞いてないですし……」
沈黙が続いた。雨の音が店内まで響く。
「そうですか?」
志津香は肩を落とし涙を流した。
「きっと、私が追い詰めたんだ。きっと……」
目を覆い肩をひくつかせる志津香。
「落ち着いてください。志津香さん」
そっと肩に手を置き落ち着かせる。
「分かりました。正直に志津香さんにだけ、お話します。ただここでは誰にも聞かれたくありませんので私の部屋で話しませんか?」
「部屋でですか? あの部屋ですか? 穂南が……」
志津香は言葉を繋げることが出来なくなっている。
「そうですよね。辛いですよね。私もあの部屋に戻るのは辛い」
「そうですか。分かりました。もしよろしければどんな風に彼女が最後を迎えていたか教えてもらえませんか?」
会計を済ませ二人で店を出た。雨はさらに土砂降りになっていた。加藤は目の前を走るタクシーを止めた。
「ほんと、雨は嫌ですね。特に雨足が強くなれば強くなるほど……。憂鬱になりませんか?」
「そうですね。雨は視界も悪くなる」
二人はタクシーに乗り込み、あの歩巳のマンションに向かった。
──このまま話を合わせれば、これでうやむやに出来そうだ。穂南の自殺の原因はこれで出来上がる。完璧だ──
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