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二日後、度会が歩巳の元を訪ねて来た。
「どうですか? もうそろそろ部屋には戻れるんですか?」
「そうですね。あらかた終わりましたから。明日にでも戻れると思いますよ」
「そうですか。早く片付けて引っ越そうかと思ってますので」
「そうなんですか? ご引っ越し? 何処に?」
「それはまだ決めてませんよ。ただ、あの部屋に住むにはあまりにも……」
歩巳は目頭を押さえた。確かに偽装はしたが別に殺したわけではない。もちろん付き合っていて結婚も考えていた。時間が経てば経つほど辛くなってくるのは間違いなかった。
「ところで、加藤さん、これご存じありませんか?」
「それは、確か、穂南が遺書に使った便箋に封筒のレターセットでは?」
「そうです。あの時、テーブルに置いてあったのがこれです」
それは分かる。この便箋を使って遺書を作成したのだから。
「それがどうしたんですか?」
「これ、いつ頃購入されたか分かりますか?」
「いつ頃? いや、分かりません。それは多分うちにはなかったと思いますから」
「そうなんですね。失敬。これは実は当日、吉井さんが近くの文房具屋で購入されたものなんです。レシートも残っていましたし、ご本人が直接購入されたもので、そのお店で確認も取れています」
「刑事さんも人が悪い。分かってて聞いたんですね?」
度会は笑って誤魔化した。
「まぁまぁ、ただ不思議なことがひとつ御座いまして。これが新しいやつなんですが、このセット封筒が三枚、便箋が六枚入りなんです」
「そうなんですか?」
「ただ遺書で使われたのは封筒がひとつ、そして便箋が一枚のみなんです」
「それがどうかしたんですか?」
「そしてこのセットの残り封筒は二つ、便箋が……残り三枚しかないんですよ?」
「──!?」
何を言わんとするか瞬時に理解した歩巳。
「足りないと?」
「そうなんです。残り二枚どこにいったのか?」
歩巳は黙って聞いていた。余計なことを言って勘繰られるのはまずい。
「二枚……あれからいろいろ探したんですがないんですよね。どこにも。ゴミとか処分……されてませんよね?」
いちいち聞き方がいやらしい。
「もちろん。そんな暇はありませんし、私には分からないですね」
「そうですよね。死亡推定の時間からして、まず間違いなく吉井さんはご購入されたから直接このマンションに来てるはずなんですよね。それから部屋で遺書をワードで作成。プリントアウトされた後、命を絶たれた。仮に印刷ミスで作り直したとしても、ゴミ箱にも捨てた形跡はない。あの部屋にないといけないと思うんですが……」
「そうなりますね。しかし私には分からないです」
「確かに。加藤さんが発見されて、そう時間もありませんから。もしかしたら不良品だったかも知れませんね……」
「はぁ……」
「不思議な話ですが……。ただご遺体の方は特に不審な点はございませんでしたから明日にでもご家族の元にお返しいたしますので」
「そうですか」
「取り合えず他殺の線は考えられませんので取り合えず失礼します……いや便箋の二枚は何処にいったんでしょう」
そう、言い残し度会は加藤の元を去っていった。
──便箋の件は白を切り通すしかないが……しかしあの刑事が言った二枚足りないとは何故だ? そのまま残っていたのが三枚。一枚は穂南が使った分、それは俺が処分した。そして一枚俺が偽装した分。これで五枚。そして残り一枚は? それは何処にいったんだ?──
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