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「結局、穂南は死に損……あなたみたいな人を愛したばっかりに……でもあなたがそんな人で……私は本当に良かったと思うわ」
志津香はゆっくり微笑みながら歩巳に近づいた。
「あれは……」
「ねぇ、私、今、全身に鳥肌が立ってる。すごい感覚よ……これはね、喜びで悶えてる鳥肌よ……あなたに抱かれてる時の鳥肌と違ってね……ふふふっ」
歩巳は後ずさりをする。しかしそれ以上に志津香は高揚した微笑みで近づいてくる。蛇から睨まれ蛙のように動けない。
「ねぇ……誓いのキス……する?」
志津香はさらに笑みを浮かべ歩巳の前に立つ。
「何を……志津香……」
追い詰められ顔をひきつらせる歩巳。背後には壁が……逃げようがない。
「ねぇ誓いのキス……歩巳さん……してあげる……ふふふ」
そして隠し持っていたナイフを志津香は歩巳の胸にそっと優しく突きつけた。
「私はどんな形であれ……恋人と親友を失った……」
ゆっくり刃先は歩巳の胸に近づく。
「あなたがすべてに逃げなければ、こんなことにはならなかった。だから……もう逃げないで済むように……ねっ」
勢いよく一気にナイフを歩巳の胸に突き刺した。鋭い切っ先が身体に入り込んで来るのを歩巳は感じた。痛みが後から追いかけて来る。深くナイフがめり込む。
「うわっ……」
痛みに歩巳の顔が苦悶に満ちる。
「私からの誓いの口づけよ……あなたの心臓に私の気持ち……このナイフで口づけしてあげる……ほらどう? 誓いの口づけは……ふふふ」
渾身の力を込める志津香。歩巳の心臓に志津香のナイフが口づけをする……。
歩巳はこれから訪れる恐怖に何も言えず口をパクパクさせるだけだった。
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