44人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの……どうされたんですか?」
黒のフォーマルスーツに包まれた女性が、穂南の父親に手を差しのべた。ゆっくり立たせた後、白いハンカチで優しく父親の汚れた膝を叩く。
「あっ、君は……」
歩巳には見覚えがある女性だった。
「ご無沙汰してます。加藤さん」
「吉良さん? でしたよね?」
「はい。でも、少しだけ失礼します」
歩巳から吉良と呼ばれた女は穂南の両親に頭を下げた。
「この度は何と言ったらいいのか……」
「あなたは志津香さんね」
「はい。ご無沙汰しております。穂南さんとは直々、お会いしてたんですが……亡くなる直前も。まさかこんなことを考えていたなんて」
言葉を失い、志津香はハンカチで目頭を押さえた。
「いつも、志津香さんのことは穂南、口にしていたわ。志津香さんがいるから私はここまでやって来れたなんて。一番の親友だなんて」
「そんな……」
涙声になり言葉が震えている。目には今にも溢れそうに涙をためていた。
「私こそ、穂南さんには助けられてました。そんな親友と言ってもらってたのに……穂南さんの苦しみを分かってあげることが出来なかった。親友として失格です。申し訳ありません。穂南さんのご冥福をお祈りします」
とうとう涙が一筋、一筋と溢れ流れていく。もう一度ハンカチで目頭を押さえる。軽く母親の肩に触れ踵を返し歩巳の元へ歩み寄る。
「加藤さんも……この度は穂南の件、本当に残念です。何かご存じありませんか?」
「それが、俺も……」
吉良志津香は穂南から大の親友と一度紹介された。容姿端麗とは彼女のために作られた言葉なのではと思うほど美しく、それでいて人への気配りも素晴らしかった。黒い大きな瞳に艶やかにまっすぐ伸びた髪。そして涙によって潤んだ瞳はさらに輝きを増して見えた。一度紹介され心を奪われそうになったことを覚えている。
「そうですか。あんなにいい子だったし、真面目で。自殺なんて……すみません」
口をハンカチで押さえた。
「大丈夫ですか? 少し休まれたほうが……」
「ええ、大丈夫です。ただやはり今回のことはあまりにも……」
志津香はショックで言葉を失い、歩巳は志津香の美しさに言葉を失っていた。
最初のコメントを投稿しよう!