吉良志津香という女

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 志津香を休ませるために葬儀場の玄関ホールのソファに座らせた。お茶を自販機で買い、歩巳は志津香に渡した。 「ごめんなさい。気を使ってもらって」 「それは、別にかまわない。穂南がお世話になっていたんだから、当然のことをしてるだけです」  穂南の名前を聞くだけでまた、志津香は涙を溢れさせた。 「本当にご存じありませんか? もしかして遺書とかなかったんですか?」  関を切ったように志津香は詰め寄った。歩巳は隣に座り耳元で答えた。 「ありましたよ。でも内容は本人のためにも言えません。本人の名誉のためにというか……だけど、私も信じられないんですよね」 「そうですか……もしかして何かに困っていたんでしょうか? 実は当日、私、穂南と会ってるんです。でもその時は自殺するような顔してなかったし。いつものように明るくて……なんで分かってあげられなかったんだろ。私、本当に親友失格だわ」  志津香は自分を責め立てるように言葉を震わせながら自分自身を罵った。 「そんなことはありませんよ。私さえ分からなかった。私こそ恋人として失格ですよ。それなのに……」  二人で穂南を偲んでいると、目の前に見知った男が現れた。歩巳にとって今、一番会いたくない男だ。歩巳は舌打ちをして失礼と志津香に頭を下げ席を離れた。 「度会さん、まさかこんなところまで……」 「いやいや、慌てなくても大丈夫ですよ。今日の用はあなたじゃない」 「──えっ?」  歩巳の慌てる様子を確認した後、度会はちらっと横目で志津香を見た。 「吉良さん。吉良志津香さんですよね?」 「あっ、はい」 「ちょっとだけお話をお聞かせ願いませんか? 穂南さんが亡くなる当日、穂南さんとお会いしてましたよね」 「そうですけど……」  度会は歩巳を無視して、席の移動を志津香にお願いした。
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