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葬儀場から戻って来た度会に同僚の兼松が声を掛けた。
「まだ、追ってるんですか? 自殺に関して別におかしいところはないですよね?」
「確かにな。今日、当日会っていたとう吉良という女にも会ってきた。特におかしいところはなかったよ。食事代は彼女が支払いをしたらしいが、食事代まで困ってるとは思えないしな」
「だったら、もう手を引いてもかまわないんじゃないですか? 遺体も特におかしな点はなかったことだし。無理矢理首を絞められたような痕跡もない。体に無理矢理自殺に見せかけたようなそれらしきアザや傷もなかった。鑑識の結果はそう出てるんですよ。それに度会さん、他にもやることはたくさんあるんだから」
兼松は別件の資料をめくりながら溜め息を吐いた。
「ただどうしても、足りない便箋の件がひっかかってな。お金の件もひっかかる。思うに自殺は正直な話、間違いないとは思う。しかし、自殺した理由は別にあるんじゃないかと。そうなると恋人の加藤が何か隠してるんじゃないか」
「恋人が死んだ原因を隠さないといけないほどの?」
少々、呆れた顔で度会を覗き込む。
「そうだ。そしてあれだ、あの遺書──」
「遺書ですか?」
「わざわざ、ワードで文章を打ち出してる。遺書を普通ワードで打つのかなって。どう思うよ」
「確かに普通は遺書なんて手書きなんじゃないでしょうかね」
「だろ? なぜわざわざワードで書いたか? 筆記がばれないため? そんなことは自殺に見せかけるためだ。本当は本人が書いた遺書があったんじゃないか。しかしそれを見られるとまずい内容が書いてあった。だからそれを処分して誰かが新しくワードで作成した。その誰か──もちろん、考えられるのは一人。加藤だ」
「でも証拠がありませんし……」
「そう。確固たるものがないんだよ。ただそう考えると便箋の謎も解けそうなんだよ。二枚足りなかったのは本物の遺書は二枚あって、それを処分したから足りないとかさ」
「そうですね。それはそうかも知れませんね」
めんどくさそうな顔をする兼松。
「いろいろ、加藤も調べてみたんだがな。会社も黒い噂は聞かなかったし。こちらに何もないのにいくら問い詰めたところで白を切られれば、こちらにはそれを崩す武器もない」
「考えすぎですよ。度会さん」
兼松は資料をペラペラめくり、度会の話を切り上げた。
──何か隠さないといけないことが加藤にはあるんじゃないか? この件は他に重要なことがあるんじゃないか?──
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