間違いは最初から

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間違いは最初から

「おい! なんでだよ?」  加藤歩巳(かとうあゆみ)吉井穂南(よしいほなみ)を前に呆然と立ち尽くした。血の気が引くとはまさにこのことだ。まるで穂南の身体が宙を浮きゆらゆらと揺れているような感覚に襲われた。    歩巳はいつものように自身が経営する会社『オーネストナイト』のオフィスから帰宅した。オートロックの部屋番号を押す。しかし、反応がない。おかしいと歩巳は思った。穂南は歩巳の会社で経理を任されている。しかし、今日は気分がすぐれないと早退した。先に帰って休んでいるからと連絡を受け部屋にはいるはずなのだ。 「そうか、具合が悪くて動けないのかも知れないな。俺としたことが……」  そう思うと歩巳は鍵でロックを解除し、部屋に向かった。しかし、ドアガードがロックされていればやっかいだと思った。とりあえず玄関の鍵を回して開けてみるとガードはロックされておらず、すんなり開いた。留守なのかと思ったが奥には電気が付いてる。起きてるのかと思いそのまま歩巳はリビングへと歩を進めた。 「ただいま……どうしたんだ? ドアガードもせずにさぁ……!? えっ?」  歩巳は一瞬目の前の光景が信じられなかった。目の前には宙に浮いている穂南がいた。梁の部分に歩巳のネクタイが輪になってかかりそこに首を吊っていたのだ。足元には踏み台にしたであろう椅子が転がっていた。 「おい! なんでだよ?」  一瞬訳が分からなくなった。歩巳は周りを見渡した。テーブルの上に一通の封書が置いてある。脇には真新しいレターセットが置き去りにしてあった。歩巳は慌ててその封を開け便箋に書かれたものを読んで見る。愕然とした。手が震える。 「このままじゃ……まずい!」  このままでは人生が終わってしまう。せっかく軌道に乗り、順調に売り上げを伸ばした会社も終わってしまう。だからといって穂南の死体を隠す訳にはいかない。歩巳は震える手を押さえながら考えた。メールを確認すると十八時二十分に穂南から連絡が来ている。この時はまだ生きていたはずだ。今は四十分。まだ間に合うと歩巳は考えた。  とにかく時間との勝負だ。慎重に歩巳はレターセットから真新しい便箋を一枚取り出した。そしてパソコンに向かう。指紋は不自然な形でつけないように注意を払った。そして文章を打ち込みプリントアウトした。それから一度、新しく作った遺書を封に戻した。 「あとやることがひとつ」  歩巳は自分のバックの中から封筒に入った分厚いあるものを穂南のバックに突っ込んだ。別にこの封筒に俺の指紋がついていても問題はない。  準備を終えた歩巳は深呼吸をした。呼吸を整え警察に電話を掛ける。 「俺なら上手くやれる」
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